第3話
新学期から約一か月が経ち、クラス替え特有の高揚感も段々と薄れてきたのか、教室の雰囲気も随分と落ち着いたものとなっていた。
一か月も経てばクラス内でも確固たるグループが完成しつつあり、俺も何とかその1つに参入することができ、安定感のある日常を過ごしていた。
なんて勝手に想像していた春休みの俺を殴ってやりたい。
俺は見事に休み時間うつ伏せ勢と化していた。
新学期早々はもちろん俺も友達作りに意気込んでいたのだが.........
いざ教室に入るとすでに部活動のメンバーで固まっていたり、何らかの繋がりで顔見知りだったりと、入学当初の皆が友達に飢えているような状況ではなかったのだ。
ある程度、形となっている輪の中に自ら飛び込んでいくような、そんな勇気もコミュ力もあるはずもなく現在こうして机に突っ伏してただ時間が経過するのを待っている。
運良く、俺の席は一番後ろ。
それに廊下側に位置したのであまり目立つことはない。
せめてもの救いか......なんて一人で考えていると
「......なにやってんの?」
抑揚がなく閑静な声色のおかげですぐに誰だかわかった。顔を上げると、見覚えのある男が窓から乗り出してきていた。
「あぁ、
「利一、まだ友達出来てないのか......」
「............」
食い気味に放たれた言葉は俺の心の芯を深く貫いた。
「もう高2が始まって一か月だろ。いい加減、友達作ったら?」
「お前は俺の母ちゃんか」
「
わざとらしくオカン口調になる成世。しかしほとんど感情が乗っておらず、ただの棒読みになっている。
去年からの付き合いで分かったことだが、本人は至って真面目に感情を表現しているつもりらしい。
「現実になりそうだからやめてくれよ」
「はぁ、利一......」
呆れた様子でため息をつく姿も不思議と絵になっているのは、顔がいいからだろうか。腹立つ。
「俺の事ばっか言ってくるけど、成世はどうなんだよ。」
「.........」
「おい!目を逸らすな!」
そう。こいつも一応、俺と同類なのだ。
去年、俺がクラス内で会話できる奴が成世しかいなかったように、こいつも俺しか会話できる奴がいなかったのだ。
どうやら、今年も似たようなものらしい。
しかし、俺と成世では自身を構成するステータスに明確な格差がある。
「......俺には京ちゃんがいるんだ。それだけでいい」
彼女持ち《リア充》である。
本名は京子で、他校の後輩、ということらしい。
それ以外の情報は何も知らない、というか教えてくれないのだ。
俺はまだイマジナリー彼女という説もあると思っている。
「本当にいるのか?その京子さんとやらは」
「何疑ってんの......そんなくだらない嘘つく意味ないだろ」
まぁ確かに、こいつの容姿とか性格なら彼女くらいいてもおかしくないけど......
「だって、写真すら見せてくれないもんな~。
証拠がないんじゃ、イマジナリー彼女って路線もまだ消えない!......というかイマジナリー彼女であってくれ」
「最後のはただの願望じゃん......」
「この世に一つや二つ信じたくない事があってもいいだろ?」
「それなら、利一のお隣さんの話の方が空想的だし、信じたくないんだけど」
「あぁ……」
俺は、左隣の席を見つめながら唸った。
今、彼女はこの教室内にはいないみたいだ。
「ん?なんかあった?」
俺の覇気のない返事に違和感を覚えたのかそんな事を尋ねてきた。
成世には自習室での天霧さんの性格や行動の変化を大雑把だが伝えてある。もちろん、俺が彼女のことを想っていることもだ。
「いや、むしろ逆。なんもなかったよ......また直前になってビビっただけだ」
俺は自嘲気味に答える。
「ん-......そっか。まぁ急いで選択しなくてもいいんじゃね」
こういう時に茶化さずに親身になって受け止めてくれるの成世の良いとこだよな。なんて噛み締めつつ、俺はただ一言。
「.......ありがと」
「まぁ、なんかあったら相談しろよ」
1歩踏み出せない自分が情けなすぎて、今の俺には成世の優しさが心地よいものではなかった。
「うん.......」
その場しのぎの曖昧な返事が俺たちの間に漂った。
「あ、そうだ利一」
成世は重くなった空気を跳ねのけるためか、大袈裟に声を上げた。と言ってもおそらく大半の人はその変化に気がつかないだろう。
「なんで前回の体育委員来なかったんだ?」
..............?
「は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます