チート能力で異世界転生したのに神様なにも分かってないんだが

月猫ひろ

人の願い

真っ白で何もない空間だった。

死んだと思ったらそんな場所。


空間の中心には大小の目玉を集めて埋め込んだ、こどもの粘土細工みたいな肉塊が立っている。

地獄なんだと思ったが、心に苦しみはなかった。


暫くの間肉塊から目をそらして、一人で座っていた。


肉塊は目にするだけで不快な気持ちが湧く。

見た目が気持ち悪いとか、襲われるかもしれない恐怖じゃない。


ただ一緒にいてはいけないのだと、本能が警告を発していた。


「あんたは誰なんだ?」


とても長い間そうしていた。

ついぞ耐えきれなくなって、肉塊に声をかけてしまった。


「私は神です」


肉塊はそんな返答をした。

ボリュームを間違えた、機械音声みたいなものが頭に流れる。


声のつもりなのだろうか?

脳みそを素手で、かき混ぜられているみたい。


「ここはどこだ?」

「異世界。あなたは死んだから、ここに送ってみました」


今気づいたが、肉塊の声はニコニコと、と表現できるくらい、上機嫌な雰囲気があった。

たしかうちの母親が趣味の悪い服を買ってきたときも、『あなたの為に買ってきたんだから』と、こんな風に勝手に楽しそうだった気がする。


「異世界って……ここなにもないけど?」


白い空間は、四方30メートルくらいの無機質なもの。

俺と肉塊以外、本当に何も存在しない。


「ええ、この安心安全な場所で。そしてあなたのステータスはチート級にあげてみました。どんな敵も認識するだけで倒せますし、身体能力もカンスト。お腹は空きませんし、睡眠も必要ありません。もちろん不老不死です。あとかわいい女の子が、意味もなくあなたに惚れてくれます」


俺は異世界チートで最強になってるらしい。

このなんにもない場所で。


「OK、女神様。願いを叶えてくれ」

「はい。いくつでも適えます」


俺自身がチートなだけでなく、神様チートまで入ってるらしい。

何でもかんでも、願えば叶えてくれるのだろう。


「話しやすい姿になってくれ。できれば美人な女神様で」

「分かりました」


肉塊はブルリと震えると、とてつもなく美しい女神の姿に変身した。

一瞬ムラっとしたが、もとの姿にを思い出すと吐きそうになった。


「そして3つだけ願いを叶えて欲しい」

「叶えましょう」


女神は美しい声で答えた。


「1つ。この世界を中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界にしてくれ。広くしてくれよ

2つ。たくさんの人間を作って争わせてくれ。できれば9割美人の女の子で」

「分かりました。3つ目は?」


「3つ目が一番大事だ。俺の記憶を消して、知能を下げてくれ。自分自身の強さに気づかないように。そしてこの世界の真実に、決してたどり着かないように、神の存在を認識しないように」

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チート能力で異世界転生したのに神様なにも分かってないんだが 月猫ひろ @thukineko

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