2222年2月22日22時22分の人類連邦法支生

OLDTELLER

2222年2月22日22時22分の人類連邦法支生

 人類連邦歴77年──最後の世界大戦から200年経ち、西暦が終わって77年。




 未だ旧世界を懐かしみ貨幣経済や権威的地位での格差を望む【非成年資格者】達に【式典】と呼ばれる催しが行われ無事に終了した。




 彼らは、補生AIを使用せずに非AI区で旧世界の20~21世紀を模した国家システムによる生活をしている変わり者達だ。




 補生AIを使わねば、ナノロイドによる元素合成も作業もできず、人間が直接生産活動をしなければならず、労働のために生活の一部を費やす事になるのに、彼らは、補生AIを道具ではなくまるで人格を持つ存在のように考え、人間が人間を支配する世界に拘るのだ。




 それは法治や法の支配を否定する事だと考えないのが、私には不思議でならない。




 補生AIは全人類の99.99997%が使用する道具にすぎない。




 現在、直接選挙権を持つ全人類の82.87954%の【成年資格者】が支持する法律を犯す者を指摘する法治をプライバシーというものと混同して、補生AIを否定する根拠にはならない。




 ましてや、嘘を知覚する装置によって公私混同せずに公務に就く存在を、AIの奴隷やAIの犬呼ばわりするのは、勘弁してほしい。




 人は空を飛べないから飛行装置を使い、人は己の欲望を制御できる者ばかりではないから、補生AIを使うというだけの話なのに。




 私には不公平な行いをするかもしれない誰かを無条件に信じて、その行為を美化しながら公正とはいえない社会で生きるよりは補生AIを使うほうが、遥かに理性的だと思えるのだが、権威や能力に拘る彼ら旧世界信奉者はそう考えない。




 個人の能力差などナノロイドや理論構築AIを使用した作業に比べれば誤差にすぎず、理論構築AIによる技術開発なしでは、ナノロイドをはじめとする今の技術革新はなく、瞬間翻訳や人類統一言語による文化融合さえなく、ひいては人類の統一などなかったというのに。




 だから、私達のように公務中に嘘をつけない存在を信じない者や補生AIによって嘘を知覚する装置を知らない者もいて、公平に法を支える生き方をする私達を非難してくる【旧世界信奉者】達の相手は困難だった。




 脳神経系の反応で虚言を見抜きナノロイドで対応する事ができなければ、不可能だったろう。




 彼ら旧世界信奉者は、嘘や誤解への誘導や欲望の扇動に果ては脅迫などという無形の暴力だけでなく、有形の暴力を行使してくる者までいたからだ。




 補生AIを使って肉体調整でストレス防止をしていなければ、暴力に暴力で対抗したくなっていただろう。




 彼ら【旧世界信奉者】は、それこそが正常な在り方だというが、酒に酔って理性を麻痺させて暴言や暴力に走るのは許せて、ストレス防止で理性的に法の下の公正を護るのは許せないというのは、レイプや痴漢行為といった本能を制御しない者達こそが人間の正常な在り方だというようなものだ。




 そう指摘しても、それは極端な話で私には情も心もないからそう言えるのだとまで言ってきた。




 個人的な感情で違法な行動を見逃せという理不尽を抜きにしても、酒に酔っての迷惑行為を容認するのが人の情で心ある行為だとは、とても思えないのだが、補生AIを使って行われる幼児倫理教育や小児人道教育を洗脳と呼ぶ者の考えは違うようだ。




 数々の暴言や暴力による補導歴が認められた彼以外にも補生AIを使った教育は洗脳だという【旧世界信奉者】は少なくない。




 だが、のべ742.675憶人に達する教育論者が、認めた自由と平等と平和を理想とする共存原理の教育論に基づいた教育を洗脳と呼ぶのは根拠に欠ける主張だろう。




 特定の権威やあるいは能力に拘る人間を創る洗脳とは真逆の理想を語ることを洗脳と呼ぶのは、自らが洗脳されていると語っているようなものだ。




 私達は悪意と善意を併せ持つ存在だから、悪意を制御しなければならないのだが、悪意を制御しないことが自由であり善意とは儚く踏みにじられる理想だと考える相手との交流はストレスばかりが溜まる。




 まあ、だからこそ彼らと私達は住み分けているのだが。




 今日は、それを深く実感した一日だった。




  労働と生き方が同じだった身分制度のあった時代の言葉だった【生業】が、生きるための仕事としての職業という言葉と分けられた時代とは違い、労働をナノロイドに任せてただ生きるだけなら何もせずにいてもいい現代。


 仕事と呼ばれた行為と趣味と呼ばれた行為の境目は消え。


 ある者は常時開催されている人類議会で社会を良くする事を望み。


 ある者は物質の元素構造コピーの元となる生産物の評価を望み。


 ある者は学術や芸術の創作を望み。


 そして、またある者は遊戯の競技者としての評価を望みと。


 多くの人々が様々な分野で自発的に社会を豊かにしようと考え、旧世界信奉者ですら、「人類が争いを止めたことで衰退した」とはいえない繁栄していく歴史の中。




 【旧世界信奉者】は人類の0.00003%を下回り、その平均年齢は高くなる一方で、非AI区から出ていく者は後を絶たない。


 そういう生き方をする人間はこの先も減っていくだろう。




 今日、非AI区から出て新たな生き方を選んだ者は217人。逆は0人。




 今日、非AI区で生きる猫達の殺処分数は182。逆は0。




 我が友である猫とその他の動物達にとっても人の生き方は影響してしまう。




 何をして生きるかを選ぶ事を【生業を選ぶ】というこの時代において、私は【法支生】という生業を誇りを持って選んだ。




 それも、実感できた一日だった。








人類連邦歴77年2月22日 記す

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