第54話 集結、世迷リスナー
「
金髪ポニーテールの女性が、放ったボールペン。それが拳大の炎に変化し、虎の魔物を灰へと変える。
「《身体強化》《首狩り》」
続いて、赤髪の女性が手にした身の丈ほどの大斧。目で追えない速度から放たれた神速の一撃が、同じ虎の魔物の首を両断する。
「うーん、面倒だ。一気に片付けてしまおう」
中性的な顔つきの金髪の男性。彼は辟易した表情でローブをはためかせながら呪文を唱える。
「《空間認知》──捻れろ《次元の支配者》」
瞬間、世界が割れたと錯覚するような衝撃とともに、範囲内にいた魔物が一瞬で塵へと還った。
ちなみに捻れろ、と言う必要はない。
東京ダンジョン121階層。
そこには圧倒的な実力者たちがいた。
「相変わらず呆れるような威力ね。あと厨二病的スキル名」
ため息を吐きつつ言ったのは、赤髪ロングにゴスロリ衣装を纏った女性……探索者ランキング6位、シエンナ・カトラル。
「まだまだ先があるというのに魔力の無駄遣いは避けてください……。まあ、魔物が多くて面倒なのは理解できますが」
己の主人を咎める、金髪ポニーテールにスーツを着た女性……探索者ランキング3位、ユミナ・ラステル。
「分かっているさ。だが遅々とした進みには辟易していてね。彼女はまだ先にいるようだし、早く追いつかねば」
先程倒した魔物のことなど意に介さず、ローブを着た金髪の男性……探索者ランキング2位、アレン・ラスターは先へと視線を移す。
彼らは世迷言葉の救出を兼ねたオフ会を開いていた。
発起人はアレン・ラスター。強制参加のユミナ・ラステル。報酬に釣られたシエンナ・カトラル、というアレン以外不本意のパーティメンバーである。
彼らがダンジョンに突入したのは、つい二時間前のことである。
世迷が飛ばされた転移トラップを活用し、80階層にやってきた彼らは破竹の勢いで先へと進む。
最初の目的は世迷リスナー兼、最下層へと誘った下手人、ユキカゼ──Sランク探索者の風間雪音との合流である。
オフ会は人数が多いほうが良い、という謎理論をかましたアレンによって合流が決まった。
121階層には人が通ったような跡があり、その証拠を持ってアレンは風間雪音が先にいるという結論を下した。
「ふーむ、近いな。これだけ魔物の数が多ければ、幾ら実力があっても疲弊するだろう。早いところ合流して先へと進もうか」
「そうね。一匹の強さは大したことないけれど、数が厄介ね。面倒だわ」
「異論ありません。先へ進みましょう」
三者三様の反応を挙げ、彼らは先へと進む。
強者は惹かれ合う。いずれ相対する世迷言葉への期待に胸を膨らませる……アレン・ラスター。
ワクワク一名。辟易二名の感情に差がある最強パーティーは魔物を蹴散らしながら歩を進めた。
***
──時は遡り二時間前。
「ハァ……憂鬱ね」
イギリスから飛空艇で20分。
初めての日本だというのに、私は陰鬱な気持ちに囚われていた。一通りの言語を取得しているため、コミュニケーションに不足はない。
ただ、これから行動を共にする奴に問題があった。
顔を隠しつつ、待ち合わせ場所である空港のVIPラウンジに向かう。そこにはすでに、赤と青のオッドアイを持つ金髪の男──アレン・ラスターと、その少し後ろに控える金髪ポニーテールの女性──ユミナ・ラステルがいた。
「直接会うのは初めてね。アレン・ラスター。ユミナ・ラステル」
「そうだな、初めまして、と言っておこうシエンナ・カトラル。来てくれて光栄だ」
「初めまして、シエンナ様。この度は主人の無理な願いを叶えていただきありがとうございます」
アレン・ラスターのギルドには、装備のメンテナンスを行ってもらっているが、未だリモートでしか顔を合わせたことがない。
そこですでにこいつとは馬が合わないと理解しているため、実際に会っても特に何かが変わるというわけでもない。
反面、ユミナ・ラステルは人当たりも良く、何よりSランク探索者にしては貴重な常識人だ。私みたいなね。
同じ女性同士、仲良くしておいても損はない。
「正直、報酬が無きゃ絶対に行かなかったわよ。ちょうど赤魔石を切らしていたところだったし」
「まあ、だろうと思ったさ。君は世迷のことを人間性を除いて好ましく思っているだろう? とどのつまり人間性を嫌っているから来ないのだが」
「つまり?」
「全てを嫌っているのなら、報酬があっても来ないということさ。君がここに来たことが、世迷言葉という配信者のファンであることの証明になる」
正直に言うと、あまり言い返せなかった。否定したいけど……否定の材料が見つからない。
人間性を嫌っているのは事実だ。けれど、配信者としての姿勢、コンテンツとしての面白さはまちがいなく好みであるからだ。
「ハァ、そんなことを言いにわざわざ私は呼ばれたのかしら?」
「まさか。これから直でダンジョン攻略だ。車はすでに手配している。秘書が」
「着いて早々申し訳ありませんが……」
「はぁ? 高級旅館取っちゃったわよ。折角良い温泉に入ろうと思ったのに……」
世迷の救出はともかくとして、折角日本に来るなら観光がてら満喫しようと思った。なのにすぐにダンジョン? 幾ら何でもワクワクしすぎでしょう。
すると、アレンはニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべて私を挑発し始めた。
「いや、いいんだ。君が大層お疲れで、温泉に入って疲れを癒やしたいなら好きにすればいい。最も! 私も着いてすぐだが、君と違って脆弱な体力は持ち合わせていなくてね。とても元気が有り余っているのさ。仕方ない! 君が疲れていると言うならね」
「ハァ……」
すぐ近くでユミナ・ラステルが大きなため息を吐いたことも気にせず、私は荷物から得物である大斧を取り出して机に足を乗せた。
「冗談じゃないわよッ! 私が疲れているですって? 元気ピンピンよ! あんたの頭をかち割って証明してあげようかしら?」
「良い方法がある。今からダンジョンに向かって、討伐数で勝負するのはどうだ?」
「望むところよ」
──乗せられたと気づいて冷静になるまであと二時間。
***
──一方、私……風間雪音は苦戦を強いられていた。
「くっ……はぁ、はぁ……っ、しぶとい!」
ほぼ休憩無しの何十、何百連戦。それは思ったよりも私の体力を消費していた。
単体で戦えば負けることの無い魔物たち。だが、度重なる連戦での疲労。蛆虫の如く湧き出る膨大な数の魔物に私は翻弄されていた。
「ハァ……! 《銀景色》っ!」
右手に持った短剣から放出された冷気が、数々の魔物を氷像へと変える。けれどその奥から再び無数の魔物が湧いて出てくる。
「負けない。世迷くんに逢うまでは。絶対」
普段は言わない力強い言葉で己を鼓舞し、私は両手に持った二振りの短剣に力を入れる。
「ガウアッ!!」
それなりの強さを持った狼の魔物が襲い掛かってくる……だけど世迷くんが戦ったスコルには遠く及ばない。
「シッ……ッ!」
スキルを使うこと無く的確に急所を突き、絶命させる。同じように襲い掛かる魔物を一突きで打ち倒していく。
体力を消費しないカウンター型の戦法。けれどその分先に進めなくなる。攻めに転じれば体力を消費するジレンマ。
私は終わらないマラソンに焦りを覚えていた。
現在の階層は165階層。世迷くんまでは300階層以上もある。
いつかは追いつける。けれどそのいつかでは間に合わない。逆走する世迷くんは順調に見えるが、絶対に限界が来る。その時に私は間に合いたい。
「……っ、邪魔!」
幾度も剣閃が繰り広げられ、時にはスキルを使うことで魔物の攻撃を凌ぎ、絶命させる。
そして私は165階層の道で────光輝く魔法陣を見た。
「──転移トラップ」
私が世迷くんに逆走させる原因を作ったモノだ。それが今ここにある。
誰も引っ掛からないであろう存在感を主張する転移魔法陣。だが今の私にとっては地上から垂らされた蜘蛛の糸のように思えた。
「行こう」
普通の方法じゃ世迷くんの元には行けない。
ラインを踏み越える必要がある。
いざ足を踏み出そうとしたその時、突如後ろから声をかけられた。
「──待ちたまえ。やっと追いついたよ」
「あんたが風間雪音ね?」
足を止める。
振り返るとそこには三人の人間がいた。
そう、人間だ。あり得ない。……いや、どこか見覚えがある。
特にその喋り方は──
「ARAGAMI……?」
「外でハンドルネーム呼びされるのは恥ずかしいからやめてくれ」
「アレン・ラスター、シエンナ・カトラル、ユミナ・ラステル。どうしてあなたたちが……?」
共通点は世迷くんのリスナーであるということ。けれどまさかこの地までやってくるとは思わなかった。それに辿り着くのがあまりにも速すぎる。
「目的は君と一緒さ、風間雪音。世迷言葉の救出。あとはそうだな……オフ会さ」
「一気に胡散臭くなりますよ、その言葉。見てください。風間様がドン引きしてます」
「本当なんだから仕方ないじゃないか」
「手伝って、くれるの?」
私の言葉に三人は頷く。
「私は報酬に釣られて仕方なくよ。じゃなきゃ絶対に行かなかったし」
それでもありがたい。
半ば非現実的で、暗中模索だった世迷くんの救出。それがここに来て味方との合流、という形で現実のものとなった。
……絶対に助けるから。待ってて
「くくく、あのアホまた何かおかしなことをやっている……!」
何があったの……?
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間に合った……(ギリギリ)
外でハンドルネーム呼びされる恥ずかしさ、ネットのオフ会あるある。
異世界ファンタジーの新作を書きました。
『実力を勘違いされ国を追放された陰陽師、国を出て村を作る〜ぐーたら過ごしたいだけなのに次々と厄介事が降ってくる件〜』
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リスナーに騙されて最下層から脱出RTAすることになった 恋狸 @yaera
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