推しの28

 取ったあっ!

 両者相手の旗をもぎ取ったあ!

 ほとんど同時、

 ほとんど同時、

 先に取ったのはどちらだ⁉ 一秒でも早く取っていた方が勝利、ひいては関東制覇! 

 さあ、勝負はどちらだ。いま、写真判定の結果が……勝者は北条ほうじょう綱成つなしげ! 北条五傑勝利、ふぁいからりーふ関東制覇あああっ!」

 「……負けた。戦国最強、軍神の軍団が負けた。しかし、嘆くには及ばない。北条五傑の戦いはまさに見事の一言。この相手に負けたのなら悔いはない」

 「上杉四天王こそ、まさに軍神の軍団の名に恥じない戦振り。今回はほんの少し、こちらの方が運がよかった。ただそれだけのこと。もう一度やればこちらが負けるかも知れない」

 「謙遜は無用。勝者は堂々と胸を張れ。勝負が終わればノーサイド。相手の健闘を称え合おう」

 「ええ、もちろん。決戦前はひどいことを言ってごめんなさい。少年院出身と言うハンデに負けず、トップアイドルに登りつめた毘沙門びしゃもん龍子りゅうこの魅力はよくわかっているわ」

 「こちらこそ大変、失礼なことを言った。この場を借りて謝罪する。実はうらやましかったのだ。仲間同士、ぶつかり合いながらも成長していくふぁいからりーふの姿が。特に、グラミー賞奪取宣言後の成長ぶりには感動した」

 「ありがとう、同志よ!」

 「『泳いで千葉』は実は五回、見た。赤葉あかば白葉しろはのラストシーンは素晴らしかった。まさか、『ガチで憎み合ってる』とまで言われたあのふたりが、あれほど見事な演技を見せてくれるとは……。皆で同じ目標を追い求めることが、これほど人を成長させるものかと涙が止まらなかった。あなたの言っていた『成長を見守る喜び』、たしかに堪能した」

 「ありがとう。でも、『苦労はファンに見せるものではない』という毘沙門龍子のプロ根性にも教えられるものは多いわ」

 「こちらこそありがとう。予告されていた次回作の『打ち上げて神奈川』も楽しみだ」

 「……すごかったものね、あの予告編。『いま、神奈川は東京から独立する!』って」

 「壮大だ。実に壮大な予告編だ。しかし、感動したからと言って負けを認めたわけではない。いつかきっと、我々の手で毘沙門龍子主演の映画『雪かいて新潟』を作りあげてみせる。そのときまた勝負だ」

 「ええ、楽しみにしているわ。ライバルがいてこそ人生は輝く。これからもお互い、アイドル業界を盛り上げていきましょう」

 「もちろんだ。

 見える、見えるぞ。プロジェクト・太陽ソラドルによって、世界中がアイドル印の太陽電池によって照らされる日が……」

 「そうよ。あたしたちの課金したお金が太陽電池となって世界中の人々を照らす。豊富なエネルギーがすべての人々に行き渡るようになることで、世界から貧困は根絶される。誰もがお腹いっぱい食べ、安全な水を飲み、医者にかかり、教育を受けることができる。そんな世界が実現する」

 「その通りだ。だが、それだけじゃない。誰もがエネルギーを手に入れられるようになることで、自分の望む場所で、自分の望む暮らしを実現させられるようになる。そうなればもはや、争いを起こす必要もない。人類は歴史上はじめて無益な争いから解放される……」

 「世界中がアイドルの光に照られた争いも貧困もない世界。あたしたちドルヲタが未来の楽園を築くのね」

 「そして、平和になった世界で人類はその能力を存分に発揮する。文明は発展し、やがては宇宙へと飛び出していく……」

 「見える、見えるわ。しろハーの顔をした宇宙船が群れを成して飛び立つ姿が……」

 「『毘沙門ソウル』の曲に乗り、銀河の果てまでも……」

 「そして、いつか異星人と出会うときがくる。でも、決して争いになんてならない。だって、あたしたちには愛するアイドルがいるのだから。異星人たちもアイドルの魅力の虜となり、共にアイドルを愛する仲間となる!」

 「やがては、銀河中の生物にアイドル愛が広まり、『毘沙門ソウル』が熱唱されるときが来る。銀河帝国ドルヲタ王朝の誕生だ!」

 「何て素晴らしい世界。あたしたちドルヲタが世界を救う!」

 「そのとおり! 共に手を取り合って理想の未来を手に入れよう!」

 「世界を太陽ソラいろ……」

 「「楽園に!」」


                   完

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(女ヲタの女子アイドルへの)愛は地球を救う 藍条森也 @1316826612

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