第18話 今は、彼女の思いに応えたい…

 二人は家に辿り着いた。


 誰かと一緒に道を歩いていると、何かと時間が長く感じるものだ。


 玄関先に立ち、隼人は扉を開けようとする。


 自宅の鍵は開いているようだ。多分、幼馴染がすでに帰宅しているのだろう。


 そんなことを思い、ドアノブを手にしている隼人は、それを回す。


 生徒会長の須々木真理すすき/まりと一緒に玄関の中に入る。




「お帰り」


 思った通り、エプロン姿の幼馴染の遊子菜乃葉ゆず/なのはがいた。

 彼女はキッチンのある方から向かって近づいてきたのだ。


「どこに行っていたの? 結構、遅かったんじゃない?」

「ちょっとさ。色々なことがあって」

「そう? でも、特に問題は……なさそうね」


 菜乃葉は、玄関にいる隼人の姿をまじまじと見ている。

 そして、幼馴染は軽く笑みを浮かべていた。


 突然、意味深な表情を見せられると、ドキッとする。




「それで、生徒会長。今日もやるんですよね?」

「今日の隼人を賭けてでしょ?」

「はい」


 菜乃葉はしっかりと口調で言い、頷いていた。


「でも、ちょっと待ってて。今帰ってきたばかりだから、ちょっと休ませてくれない?」

「いいですよ。勝負は平等にやらないと意味ないですから」


 菜乃葉は余裕のある態度を示すと背を見せる。彼女は玄関先から立ち去って行った。


 自信に満ち溢れたオーラを感じる。


 まさか、何かしらの対策があるのだろうか?


 そんなことは、隼人は思いながら、玄関で靴を脱いで、先輩と共に、ひとまずリビングへと向かうのだった。






 崎上隼人さきがみ/はやとと先輩は、ソファのところに行きつくと、そこに隣同士で腰かけた。


 自宅に辿り着けたという安心感と、いつもながらのソファの柔らかさに慰められながら、胸を撫でおろす。


 隼人は家にいる時の方がリラックスできるのだ。

 学校内だと、他人の目を気にしないといけないからである。


 隣にいる須々木先輩も、落ち着いた感じに深呼吸をしていた。

 でも、これから始まるであろう、菜乃葉との闘いに備えて、気合を入れているようにも思えたのだ。






「では、そろそろ、いいですか?」

「ええ。もう、準備は整ってるわ」


 幼馴染同様に、生徒会長もやる気を露わにしている。

 迷うことのない二人の意思が表示された瞬間だった。


 その二人は、リビングの床に立っていたのだ。


 先輩と向き合う菜乃葉は、比較的落ち着いた表情で先輩の様子を伺っている。


 ある程度の拮抗状態が続いたのち。

 腕組をしていた先輩の方から話題を切り出したのである。




「ねえ、今日は……お菓子で勝負しない?」

「お菓子っていうのは? どういうことでしょうか?」


 幼馴染は言葉の真意を確認しようとする。


「ポッキーっていうお菓子があるじゃない。それを使って……やるってこと」

「え? どういうこと?」

「だから……」

「なんなんですか?」


 次第に立場が逆転していく。


 提案者である生徒会長の方が有利だと思われていたが、幼馴染の方が力を蓄えてきているように思える。


「はっきりと言わないと何も進まないですよ」

「わ、わかってるわ……その、ポッキーゲームってこと」

「生徒会長にしては、結構踏み込んだことを提案しましたね」

「別にいいでしょ」

「何かあったんですか?」

「別に、なんでもないわ。そういう気分だったというだけ」


 須々木先輩は頬を紅潮させ、軽く俯きがちになり、幼馴染には視線を向けていなかった。


 瞳を合わせる行為に抵抗があるのだろう。


 そんな中、隼人は、その二人の光景を眺めているだけだった。




「始めるから」

「ええ、いいわ。最初はどっちからがいい?」

「提案した、生徒会長からで。私が先行でもいいですけど」

「じゃんけんってことでいい? その方が平等でしょうし」

「任せます」

「では、じゃんけんで先攻後攻を決めるってことで。後出しはなしだからね」

「わかってますから」


 二人は向き合い、じゃんけんでやり取りを交わす。


 結果はというと、幼馴染の方が先行を獲得した。


「私が、隼人と最初にやりますから。決まったことですし、問題はないですよね?」

「ええ」


 須々木先輩は特に表情を変えることなく冷静な立ち振る舞いを見せていた。

 何かしらの目算があるのだろうか?


 菜乃葉は余裕のある態度で隼人の元へとやってくる。


 隼人はリビングの長テーブル前の椅子に座っていた。


「ねえ、隼人、これ、口にしてみない?」


 近づいてくる幼馴染。

 そして、隼人の隣の席に座る。


 彼女は体を摺り寄せるように、胸元を隼人の右腕に押し当ててきたのだ。


 これは……。

ポッキー以上の何かになりそうである。


 隼人の内面はドキッとしたのち、動揺を隠せなくなりつつあった。


「ねえ、隼人?」

「な、なに?」


 隼人は声を震わせながら返答する。


「こっちを向いて」


 隼人は彼女に従うように、幼馴染と同様、ポッキーのそれぞれの先端を加えた。


 視界の先に映る幼馴染の顔。


 それが一番、気まずかったのだ。


 キスしているかのような状況に、隼人の胸の内は高まっていた。


 それに、その光景を近くで先輩に見られているのだ。


「そ、そろそろ、やろうか……」


 隼人は、そのまま受け入れる。


 数分ほど、その行為を続けた。




 気が付けば、菜乃葉と共有していたポッキーの長さは三センチ。


 今回のゲームは、どれだけ短くできるかが鍵なのである。


 今度は、左側の席に座る須々木先輩と向き合い、キスする姿勢になるのだ。


 唇で咥えているポッキーを須々木先輩から渡された。


 隼人も、その先端を咥えると、みるみる内に緊張感が湧き上がってくる。


 先輩のことを思うと、どうしても不思議な気分に襲われるのだ。


 先輩のことが好きかどうかはわからない。

 けど、助けてあげたいという思いが空きあがってくるのだ。


 そのまま素直に受け入れることにした。






「ねえ、どっちの方がよかった?」


 幼馴染から問われた。


 先ほど、それぞれとのゲームが終わったのだ。


 奇跡的に、二つのポッキーの長さに大きな差はなかった。

 こうなったからには、隼人からのジャッジが必要不可欠なのである。


 隼人の中では、すでに決まっていた。


 それは須々木先輩の方。


 今は、先輩と一緒にいたいと考えていた。


 幼馴染から距離を置きたいとか、そういうのではない。


 ただ、今は、大変な事情を抱えている彼女のためになりたいという思いがあったからだ。


 隼人は須々木先輩の方を指名する。


 先輩は意外にもすんなりと受け入れ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 幼馴染は一瞬ショックを受けた感じに塞ぎがちになる。

 が、すぐに気合を入れなおし。


「次は絶対に負けないから」


 幼馴染はまだ、諦めている様子はなかった。


 菜乃葉は積極的な姿勢で、隼人の右腕へ抱き着いてくる。


「ちょっと離れたら? 今日は、私が優先なのよ」


 左腕の方には、須々木先輩のおっぱいが接触する。


 隼人は、二人の美少女に囲まれながら、今後も生活することになったのだ。


 本当の意味で、どっちがいいかは、まだ、先送りになりそうだった。

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爆乳な生徒会長が俺の家にいるのだが、これじゃあ、幼馴染と一緒に過ごせないじゃん 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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