後編

閑静な住宅街の一角。日当りのいい、昼さがりのリビングルーム。

ソファには、今年17才になる愛くるしい双子の姉妹の姿が。


「あっ……待って! そこは、触っちゃ……ダメ……ぇ」

長いシフォンのスカートに包まれた姉のヒザを枕にして横たわる妹の歌華うたげは、切なげに声をかすれさせながら、尿意でもこらえているようにモジモジ身じろぎして、

「そんなに広げたら……っあ……っん」


「広げなきゃ、入らないでしょ? 歌華うたげのは、ちっちゃいんだもの」

と、姉の茉莉まつりは、天井を向いているがわの妹の耳朶じだをすべらかな細い指で引っぱりながら、空いているほうの手をサイドテーブルに伸ばし、最近ネット通販で取り寄せたばかりの真新しい耳かきをつかんだ。


今まで使っていた耳かきよりヒトマワリ大きいそれを片目の端に見上げると、歌華うたげはギョッとなった。

「だ、だからぁ……そんな太いのイヤって言ったのにぃ……ふぁ……っんぅ!」


「もう、先のほうが入ってるわよ。痛い思いしたくなかったら、じっとしてなさい」


「や……んっ! そんな、急に……」


「ダメ、動いちゃ。ちゃんと、奥まで良く見せなさい」


「ヤダぁっ……汚いから……」


「そんなことない。キレイよ、スゴく」


「でも……」


「……いつも、自分でやってるんでしょ?」


「はぁっ……あ……っん」


「ここ? ここが、気持ちいいの?」


「ん。いいっ……」


「じゃあ、もっと、いっぱいこすってあげる」


茉莉まつりぃ……そこっ、こすれてる音が聞こえるのぉっ……早くぅ……も、出してぇっ!」

耳かきの尖端は、耳奥の肌に貼りついた剥片はくへんのキワをジレったくなぞっては、あと一歩というところで横にそれてしまう。

茉莉まつりのイジワルぅ……!」

ほっそりした歌華うたげの腰は、もどかしく緩慢かんまんに揺れ動いた。


アセる気持ちを落ち着けるため、茉莉まつりは、ホゥッと小さくタメ息をついた。歌華うたげの耳に顔を寄せ、ジックリと耳の中をのぞきこむ。

そして、予想外に手ごわいターゲットをハッキリと目視もくしすれば、いっそう大胆に耳かきを動かした。

「もうちょっとだから……おとなしくしなさい。スッキリさせてあげる」


「はぁんっ! やんっ! ダメっ……ムリぃーっ!」

歌華うたげは、ハデな大声をあげた。スウェットのハーフパンツからスンナリ伸びた足の爪先が、ピンとのけぞる。


その瞬間、リクライニングチェアーに腰かけながらミルクをタップリ加えたクイーンメリーをたしなみつつ、カフェテーブルに開いたファッション誌を眺めていた双子の母親は、お気に入りのオールドノリタケのカップをソーサーに叩き付けるように「ガチャン!」と置くと、たまらずに大声で叫んだ。

「いい加減にしなさいっ! あなたたち……っ」


キョトンと驚いた目をみはる双子の娘によく似た端正な白い顔は、困り果てた表情を浮かべながら、ほんのり赤く上気していた。




    オワリ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

麗しき双子姉妹の昼下がりの密事 こぼねサワァ @kobone_sonar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ