第56話
次の日の朝、蓮人が教室に入ると、澪が玲華と楽しそうに話をしている姿が目に入る。
普通に考えて、おかしすぎる。一度体験しているからとはいっても、やはり違和感があった。——死んだはずの少女が、楽しそうな顔で話をしているなんて。
蓮人の姿を確認すると穏やかな笑みを浮かべ、澪が手を振ってくる。
「おはようございます、蓮人さん」
自分の席に着くと、こちらに近寄ってきた。
昨日この少女が道で、胸と頭を潰されたなんて言ったら、間違いなく蓮人の方が頭を心配されるだろう。
「お、おう……おは、よ」
けれど、そこまで驚きはしなかった。予想はしていた。蓮人は目を合わせないまま、静かに挨拶をした。
「昨日は楽しかったです。またお願いしますね」
「そ、そうか……楽しかった、か」
「はい。今まで生きてきた中で一番楽しかったです」
澪がもう一度笑みを作る。それは蓮人とのお出かけのことなのか、それとも道でのことなのか。蓮人にはどちらの意味でも捉えられた。
澪は可愛らしい笑みを作りながら口を開いた。
「けど、ちょっと驚きました」
「……何にだ?」
蓮人が返すと、澪は少し眉をひそめた。
「てっきり学校を休むかと思いましたから」
昨日の出来事が、ありえないくらい鮮明に蘇る。
「……それは、悪かったかな」
「いやいや。全然悪くないです。蓮人さんがちゃんと学校に来てくれて、嬉しいです」
表情は変えずにそう言ってくる。
徐々に頭が痛む。その痛みを振り払うかのように、頭を横に振った。
「——澪」
「?どうしました?」
「——お前は、何者なんだ」
顔を上げ、率直に疑問をぶつける。
その瞬間、澪の笑みがどんどん失われていく。
「……私は、ブロッサム。けど、ピジーやリリーとは違う。私は、自分の意思でブロッサムになった。ある人物を手に入れるため」
「……」
「それが、あなた」
人差し指を、こちらに向けてくる。
「……俺?」
「そうです」
「それが……俺を襲いにくる、理由なのか?」
「……まあ、そうと考えていいです」
「なぜ、俺を手に入れようとするんだ?俺は、ただの人間だ、ブロッサムじゃない。なのに、どうして……」
「人間だから、とかじゃない。蓮人さんだから、です。あなたにしかない力が、私は欲しい。だから——」
と、人差し指を蓮人の首に当てる。
「私が、あなたを守ってあげる」
耳元でささやかれ、ビックリして椅子ごと後方へと転ぶ。
「——随分、楽しそうな会話してるわね」
と。
目を開けると、まだ後方へ倒れ切っていなかった。
つまり——椅子が、後ろの二本足だけで立っていたのだ。
「……あぁ」
と、怪訝そうな声を出す澪。
右の方を見ると、そこには制服姿のピジーが立っていた。
「それじゃ、私行くね。……最後に手に入れるのは、私だから」
そう小さく言って、消えるようにして教室を出て行った。
花の魔法少女 minonライル @minon13
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