迷子の風船(カフェシーサイド)

帆尊歩

第1話 迷子の風船


遙さんのお使いは相変わらず激烈を極める。

重いから大変、だとかいう感情は存在しないらしい。

ちょっとイライラしながら、いつものホームセンターを出ると、赤い風船を持つおばあちゃんと、そこに寄りそうおじいちゃんのカップルが歩いている。

何だか微笑ましくて、お使いの事など忘れて、見ていた。

おばあちゃんは、浮いた赤い風船を見上げ、嬉しそうに歩いていた。

杖をつき、危なっかしい、それをおじいちゃんが心配そうによりそっている。

すると案の定、おばあちゃんはつまづいて、転びそうになった。

それをおじいちゃんが抱きかかえたが、おばあちゃんが持っていた赤い風船はおばあちゃんの手を離れてしまった。

するとおばあちゃんは悲痛な叫び声を上げた。

僕はびっくりして二人に駆け寄った。

「大丈夫ですか」

「ああ。大丈夫です」と言うおじいちゃんもオロオロしている。

見ると幸運な事に風船は街路樹に引っかかっていた。

おばあちゃんは取ることの出来ない風船を見て声を上げていた。

「取りましょうか」まあそう言わないといけない状態ではあった。

「良いですか」おじいちゃんは申し訳なさそうに言う。

まあたいしたことはない、街路樹といったてこの二人には不可能かもしれないが、若い僕ならどうと言うことはない高さだ。

ちょっとよじ登って、風船をおばあちゃんに渡すと、おばあちゃんは大事そうに自分の腕に巻いた。

「ありがとうございます。ちょっと認知症がありまして」おじいちゃんは、風船をとって貰ったので、説明しないといけないと思ったらしい。

「いつも二人で散歩をしていまして、風船はさっきのホームセンターで貰いました」

「そうなんですね」

「お恥ずかしい。妻が息子のことを思い出したようで」

「息子さん?」

「もう四十年以上前に、この海で私たちは息子を亡くしまして。お互いに忘れる事が出来ていたんですが、妻が認知症になって、また思い出してしまったようで、風船は息子を亡くす数日前、息子も飛ばしてしまって、妻は息子を叱ったんです。でもその後息子を亡くしたので、妻はずっと後悔していたんでしょうね。

飛んでいった風船を息子のように思ったのでしょうね、お恥ずかしいところをお見せしました」


「良かったら今度、海ベに「柊」というカフェがあるから、寄ってください。世話好きのオーナーがいるので、気晴らしにどうぞ」

「じゃ、今度よらせて貰います」

「いつでもどうぞ」

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迷子の風船(カフェシーサイド) 帆尊歩 @hosonayumu

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