ファイナルファイト

川谷パルテノン

ファイナルえっくす

 クリスマスが今年もやってくる。えっくすでい。百五十院レイカ十九歳。一人暮らしの初スマス。長かった。子煩悩を通り越えファナティックとなった父を説き伏せ、父不在のクリスマスを構築するに至るまで幾重もの苦難があった。消えたペガサス、消えていたプリン。そしていよいよ父もいない(存命)。喜ぶより先に咽び泣いた。止まらない嗚咽、昂る感情、抑えクールになど出来ない。大声で泣いた。だがいいマンションなので防音も完璧だ。レイカはひととおり泣き終えると彼氏に電話した。今日どうする? 微笑ましいやり取りである。

「やあ、レイカ」

 一度耳元のスマホを離して見つめた。聞き覚えのある声に耳を疑った。彼氏ならば当たり前のことであったが彼氏ではなかったので当たり前のことではなかった。番号を確認した。彼のもので間違いない。だのに何故。

「パパ!? なんで!」

「一緒にいる」

「誰と! いやわかる! 何をしてるだーーーーーッ!」

「最善の方法を探した。レイカ全然出ないからパパの電話」

「なんてこったい♪ って何やってんの! 彼と変わって!」

「彼なら今パパの隣で寝てるよ」

「テメーーーーッ! 承知せんからな!」

「レイカ、今年はサンタさんに何をお願」

 レイカは電話をブチると即座に駆け出した。彼氏宅までここから電車で十五分。待っていられない。駐輪場にあった手頃な自転車の鍵を破壊し、停めてあった場所に小切手を置くとその場を乗り去った。

 太ももがオーバーヒートしそうだ。だが構ってられない。サンタが殺しにやって来た。彼を助けなくては。

「ウォーーーッオオオリャーーーーッ!」



 ピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンピポンッ!


「やあ、レイカ」

 即座に顔面に拳を叩きこんだ。

「マーくん! 大丈夫!」

「あ、レイカ、どったの?」

「マーくん……よかった 無事で」

「何何? え、なんで泣いてんの?」

「痛いことされなかった? 変なことされてない?」

「え、一緒にスマブラやってただけだけど。お父さんのバンカズ強いねー。全然勝てないよ」

「……おい親父!」

「レイカ、ひどいな。パパをいきなり殴るなんて。で? 今年は何を」

「失せろ! ママに言いつけるど!」

「ママ? レイカ! ママは今どこに!」

「言うか! とにかく失せろ! これ以上マーくんに近づくな!」

「レイカはそんなくそザコゼロスーツサムス使いのどこがいいんだ!」

「うるせえ! パパなんか大っ嫌い!」


 大っ嫌い


 大っ嫌い


 大っ    嫌い



 目が覚めると病室のようだった。薬品の匂いがする。そうか、僕は気を失っていたんだ。レイカがあんなこと言うなんて。でも当然だ。僕はレイカの本当の幸せを思ってやれなかった自己中な父親だ。そんな僕をそれでも病院まで運んでくれたんだ。情けない。ごめんよレイカ。


 急に照明が点く。眩しさのあまり目を窄めた。何が起きてる。

「あなた、久しぶり」

 スピーカーから唐突に声がした。

「その声は……ママ!」

「今からあなたのオペをおこないます」

「なんだって!」

「レイカの記憶を残らず消去します」

「なんだって! やめてくれ!」

「あの子のためなの。わかって、あなた」

「やめてくれー! お願いします! たのむ! 僕が、僕が悪かった! レイカ! ごめん! パパは もうサンタはやめる! パパはただレイカのことが大好きなんだーーーッ」

「嘘じゃ ないよね」

「レイカ?」

「もう、子離れしてくれるよね?」

「レイカ……今年は何をお願」

「ママ、はじめて」


 オペが始まる。

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