後編

その日を境に、日本にはダンジョンが生えた。


全国各地269箇所にモンスターの出てくる穴が観測され、中はモンスター犇めく迷宮であったため、そこをダンジョンと呼ぶことにしたのだ。


ダンジョンからやってくるモンスターは、地震や津波のような災害となり、人やモノを破壊した。不幸な事件も数多く起こったが、それは日常となった。


戦えるものは武器を手にモンスターを排除し、戦えないものは後方支援をする。


そのうちに"スキル"や"魔法"など特殊技能も見つかり、一年としないうちにモンスターをダンジョンに閉じ込めることが出来るようになった。


戦えるものは"ハンター"となり、ダンジョン内のモンスターが溢れないように間引きするようになった。


高校卒業した弟の紘太は、念願のハンターになって『装備武器:父の大事なドライバー』を振り回している。父には他の高級なゴルフクラブについて、母に内緒という取引をし、ドライバーの所有権を譲ってもらったらしい。なのにまだその名前なのは仕様か?




まあ、兎に角。日本は少しずつ、平穏な日常を取り戻しつつあった。






「で、あんたはハンターにはならなかったのね。」


私の唯一の友人は席の横にある傘を見ながら言った。


LINEでは毎日のようにやり取りしていたが、逢うのは久しぶりだった。それはそうだ、つい最近まで、自宅から出ることすら危険だったのだから。


やっと友人と気兼ねなくランチもできる――私はそんな穏やかな日常を噛み締めていた。




「武器はすごくても、扱う人間が弱いと結局危ないしね。固有武器は他人に譲れないし、宝の持ち腐れではあるけど。」


「まあ、そうよね。あんたのキャラクターじゃ、戦ってるイメージないもん。」


「運動音痴なのも知ってるでしょ。」


「高校の体育の授業思い出すよ。バレーボールを顔面でトスしてたよね。」


「なんでそんなん、思い出すのよっ。」


「それなのに、スポーツ用品の会社に就職したから笑ったけど。まあ、でも、今は防具メインなんだって? 」


「ユニフォームのノウハウがあったしね。今は完全にハンター御用達のお店ね。私もすこし戦ったから、経験を仕事に生かしてるよ。あなたもダンジョン付属病院でしょ。毎日大変じゃない。」


「医者や看護師に治癒魔法使える人間が多いって噂は本当だと思うよ。ダンジョン付属病院の職員、ほとんど回復系魔術師だからね。下手な医者より、オバチャン看護師のほうが魔力高かったり面白いけど。」


「まだ噂の段階だけど、今後ダンジョンやスキルの研究が進んで行くんだろうねえ。」


「モンスターのドロップから、あたらしい薬とかも作られてるしね。」


「どうなるかと思ったけど、お互い無事で、なんとか適応出来てて良かったよ。」




食事を終え、ふたりで店を出る。


モンスターの食材なんかも使う店だったが、なかなかの味であった。デザートも久しぶりの甘味だった。


外には一度破壊されたが、新しく手に入れたスキルや魔法で美しい町並みに再建されている。


神社や寺院は結界があったのか、モンスターも破壊しなかったため、日本は古きものと新しいもので溢れていた。




「あっ、和葉! また、傘忘れてるよ! 」


「えっ、ああ。またやっちゃった。――武器召喚:失くしちゃ駄目な傘 」




私が腕を広げると、ブーンという音がして傘が手のひらに光が集まる。


やがてそれは、傘の形になった。


20万円した、ハイブランドの私固有の傘は、召喚により私の手元に戻ってきたのだ。




「……っ、和葉、それって?! 」


「うん、日本にダンジョンが出来たお陰で、私、傘を失くさなくなったんだよね。」




―――これで、私はもう、友達に呆れられずにすむよね。


私はダンジョンの恩恵に、にっこり微笑んだのであった。

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モンスター&アンブレラ 花澤あああ @waniyukimaru

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