中編

「ねえちゃん! 大変だよ! て、テレビみて! 」


帰宅すると、高校生の弟が私の腕を引きリビングのソファに押し込む。興奮しているらしき弟は、私が虚無なにも気づいていないようだ。


テレビなんて最近は見ないでSNSばかりなのに珍しいなと、ぼんやり思いながら見たテレビには、先ほど出会ったゴブリンと人が戦うライブ映像。


リポーターが『この世界はダンジョンになってしまいました! 』と叫んでいる声がしていた。




「……あ、ゴブリン……、」


「そーだよ! やべえ、どうしよう! モンスターだよ! 」


「……さっき、遇ったし、倒したわ……」


「マジで! ねえちゃん、え、たおした?! 倒したらなんか、ステータスとか、出るって! 」


「え、ステータスって? 」


「ほら、あれ、レポーターがやってるじゃん! 」




弟が指差した画面で、レポーターが手元に透けたタブレットの様なものを出現させていた。名前や年齢、あれこれ個人情報大丈夫なのかと思いながら、下の文書に目が止まる。




『装備武器:マイク 攻撃力+34』




「あの人、マイク振り回したのかなあ。」


「使った武器がああやって装備として出てきてるんだろうけど、ほら、鎖鎌みたいにも使ってる。ヤバい、ちょっと変な図だね。」


「……銘はないのか……どういうこと? 」


「うわー、本気で血がでてる! リアルじゃん、どうなってるんだよっ! 」




「ステータス……。」


手のひらを見つめながら呟くと、ブーンと透けたタブレットが出現した。




「ねえちゃん、マジか、すげー! ステータス画面、俺にも見せて! 」


「ちょ、待ってよ……」




『中田和葉 24歳 女性 生命値140 魔力値0 攻撃力25+50 防御力23+20,5005 知力値53 精神値26 』


『装備武器:中田和葉固有武器 アンブレラ 銘:失くしちゃ駄目な傘 攻撃力+50 防御力+20,5000』


『装備防具:ぬのの服 防御力+5 』




「なんなん……。なんてゆーか、防御力がお化け。」


「うわー、装備が凄い! あの、むっちゃ高級な傘で戦ったん? 」


「だって、あれしか手元になかったし。」


「ねえちゃんが無事で良かったけど、もしかして、これは値段が関係あるんかな……俺もそういう武器使えばいいのか? 」


「でも、そんな、高級なものあとは我が家にないでしょ? 」


「いや、ひとつ、俺にも心当たりが。」











「ねえ、紘太やめとかない? 」


「大丈夫だよ、もしなんかあっても、その傘の防御でどうにかなるって。」


「それもそうなんだけど、パパの大事なゴルフクラブ持ち出したの、バレたらヤバいって。」


「えっ、そっちー……? 」




弟が持ち出したのは、父の書斎に飾ってあったゴルフのドライバー。


初心者が陥りやすいミスとして安いゴルフクラブで済ませ、プレイ中に少しの衝撃や負担でゴルフクラブが曲がってしまい、何回も買い換えて結果として出費が増えてしまうことがある。だから、高級なゴルフクラブを買えと、父が友人に勧めているのを聞いたことがある。


そんな父が一番大事にしていたドライバー、高いに決まっている!




「だから、高級品のがきっと、いいんだよ! 」




弟と私はゴブリンに出会ったバス停に来ていた。


近くにはゴブリンらしきものは居なかったが、人も誰もいなかった。町内放送で避難しろと言っていたから、みんな学校等に批難しているのかもしれない。


すでに日は暮れて、とても不気味な雰囲気だ。懐中電灯の光が実に頼りない。




「ねえ、うちらも避難しない? 」


「……しっ! ねえちゃん、静かに!」




ゴブリンを探して神社のとなりにある児童公園の、大木のうろから緑色の物体が這い出るところに遭遇した。


まだ、全て身体が出てきていない。つまりチャンスと弟は思ったらしい。素早くドライバーをゴブリンの頭に振り下ろした。




「ギャアアアアアア!! 」




「うわー………。」




ゴブリンの断末魔を聞きながら、私はなんとなく、手を合わせる。私は攻撃されそうになり、仕方なく反撃したわけだけど、これは不意打ちすぎないか……?


ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ゴブリンに同情した。




「おぉ! ステータスが出た! 見て、ねえちゃん!」


「あー、ハイハイ。」




『中田紘太 18歳 男性 生命値210 魔力値0 攻撃力45+40 防御力60+5 知力値43 精神値20』


『装備武器:父の大事なドライバー 攻撃力+40 耐久値+55,0000』


『装備防具:ぬのの服 防御力+5』




「耐久値は、すごいけど……、ただ単に壊れにくいってだけなんじゃ。っていうか耐久値55万って、このゴルフクラブの値段だったりしたら、お父さんはお母さんにめちゃくちゃ怒られるんじゃないの? 」


「そんなことより、傘より攻撃力弱いって……。武器の名前も父の大事なドライバーって……。」


「固有武器ってはでないんだね。お父さんのモノだからかなあ……。」


「でも、これで俺も戦える。リアルモンスターハンターだよ! 」


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