迷子の風船 ~幽霊の見える公理智樹

Tempp @ぷかぷか

第1話

 幽霊の見える智樹ともきは、反省と、変な目で見られるのを諦めた。

「さっさと歩きなさいよ」

 不審な声は無視すると決めていたが、空から聞こえた美波みなみの声に見上げれば、赤い大きな風船が街路灯に絡まっていて困惑した。直系1メートルはありそうだ。

 外せば運べと言い、あっちの方向に歩けと言う。偉そうな物言いに若干不貞腐れ、ダーツの的にしたいと思い始めたが、智樹としては死んで風船に取り憑いたのかと思えば断れない。美波は行動が突飛なのだ。

 そして何故か2時間も歩かされ、辿り着いたのは無人の山奥だった。


「最初から籠屋山かごややまって言えばバスに乗ったのに」

「知らないわよ。方向しかわかんないんだから」

「意味わからん」

「後一寸だから運びなさいよ」

「何で風船なの?」

「知らないわ。気がついたらこの中にいたんだから!」

 この中、と聞いて風船を見上げれば、たしかに人一人くらいは入れそうだ。そしてその一部のゴムがぐいんと伸びた。

「え? あれ? お前、風船に取り憑いてんじゃないの? 入ってんの?」

「はぁ? あんた相変わらず意味わかんないわね」

 智樹は馬鹿馬鹿しくなった。割ればいいじゃないか。そう思って風船の表面を引っ張った瞬間、殺気に襲われ慌てて離れる。

「ちょ、なんで服破ろうとしてんの!?」

「え、全裸なの?」

「馬鹿じゃないの!?」

 声の主は美人だが、破いた後を想像すれば面倒くさすぎて智樹は破るのを諦めた。

「まさか山越えしろとは言わないよね」

「そんなに遠くはないと思うんだけど……」

 結局、街装備で指示された尾根近くの開けた場所まで登った頃には、智樹は疲労困憊だった。

「手を離しなさい」

「え? 飛んでっちゃうよ」

「離しなさいって言ってんのよ!」

 勢いに仕方なく離せば、当然ながら風船はふわふわと上空に登っていく。

「ちょっと! どこ行くの!」

 そう思った時には既に手遅れ、遮るもののない山、あっという間に手が届かないところまで上昇し、ふつりと見えなくなった。智樹はあわあわと動転したが、よく考えれば人一人入れば飛ぶわけがなく、とすれば生霊か死霊か何かだろうと納得し、そして遥か見下ろす雄大な自然光景に絶望した。

「これ、降りないと駄目だよね」


 瀕死の思いで下山し、翌日美波の工房を訪ねたら普通にいた。

「何で昨日風船につまってたの?」

「はぁ? あんたとうとうイカれたの?」

 そういえば籠屋山には妖怪がいるとかUFOの発着場があるとかたくさん噂がある。智樹は考えるのを諦めた。

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