物語の創り方

結騎 了

#365日ショートショート 345

「ご依頼ありがとうございます。キソ・コーポレーションです」

 インカムを着けた女は軽快に応答した。ほうら、またカモがやってきた。

「さて、どのようなご希望でしょうか」

 通信の向こう、男の声を聞きながら、リズミカルに打鍵を続けていく。ぼそ、ぼそ、と要望が聞こえてくる。ここが肝心。取りこぼさないようにしなくては。

「……かしこまりました。舞台は中世ヨーロッパ。登場人物はティーンが中心。ドラゴンや魔法が飛び交うファンタジーですね。こちらの内容でお間違いないでしょうか」

 ディスプレイでは早速、請求書を生成する。電話の前に本人が入力したメールアドレスに、あと一手で送信可能だ。大丈夫、このあとの展開は分かってる。

「物語の数は、取り急ぎ20ほどでいかがでしょうか。多くのお客様がこのくらいをご希望されます。……ええ、はい。そうです。この20の物語については、全て先ほどの設定に準じた別々の物語です。ひとつひとつはベタで王道ですが、少しずつ嗜好が違います。喜劇や悲劇、冒険活劇や恋愛もの、ミステリ寄りからゴア描写有りのものまで。言うまでもなく、著作権ごと全てあなたのものです。当社の高性能AIが生成したものを、スタッフが手直ししてお渡しいたします」

 そらっ、これでどうだ。送信、っと。

「今、メールを……。そちらに請求書が届きましたでしょうか。はい、それが20件分の物語のセットプランです。ご納得いただける場合は、お振込をお願いいたします。ご入金が確認できましたら、2営業日以内に20件分をテキストデータでお送りいたします。どうぞよろしくお願いします」

 評論家気取りのSNS論者が、思い上がって創作に手を出す。しかし、他者が作ったモノへの評論と、無から有を生み出す創作とでは、全く勝手が違うのだ。そんな人に当社のサービス。希望の設定に準じた基礎となる物語を、金をもらった分だけ提供してやる。あとは、お得意の評論視点でお好きに切って貼ってひとつの物語にしてください、というわけだ。無から有は作れないが、有をこねくり回すことはできる。と、思っているのだろう。

「良い作品になりますことを、願っております」

 なるはずがない。他人にケチを付けることが生きがいのこんな奴らに、まともな創作なんて出来やしないんだ。性懲りも無く、またうちに依頼してきてね。

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物語の創り方 結騎 了 @slinky_dog_s11

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