第12話

「…あれから3ヶ月。かぁ〜」


盛夏の日差し眩しい夏の丸橋法律事務所。


デスクに座っていた真嗣は、ポツリとそう溢し、不動産屋の物件のチラシを見る。


夏の初め、自分も藤次に想いを伝えキスまでしたが、その想いは受け入れられず、結局…退院してくる絢音と過ごせと長屋を後にし、ホテル暮らしの日々。


妻嘉代子とやり直そうかと言う考えも過ぎったが、自分から離婚を切り出し捨ててきた人間が、どのツラ下げて言えるかと、結局…この京都に1人根を下ろす事を決めた。


愛した藤次は今頃、自分とのキスなど綺麗さっぱり忘れて、絢音と幸せに暮らしているのだろうと思うと、何だか以前のように会いにも行けなくて…


悶々とした気持ちを抱えながら、春彦達がどうしているだろうと想いを巡らせていた時だった。


ポンと、パソコンのメールが着信を告げる。


差し出し人は…


「さ、酒井さん?!!」


何事かと開いたメールにあったのは、1枚の写真と、短い文。


「あ…」


写真は、どこかの病院の病室のベッドで、沢山の管に繋がれながらも精一杯笑う直哉と、それを囲む…穏やかな笑顔の春彦と奈津美と、芽衣子…


ー弁護士さん。俺、家族手に入れた!春彦や芽衣子さんと同じ墓に入れる!幸せだよ!弁護士さんは、今、幸せ?ー


「幸せ…か。」


そう呟いた瞬間、今度はスマホのメールが鳴る。


「…楢山君?僕にメールだなんて…なんだろ?」


メール画面に映し出された同期の友人の名前に疑問を持ちながらも開封すると、短い文章が表れる。


『今週木曜日。19時。KICHIRI 河原町集合。飲むぞ。いつもの3人で。』


その文章を見た瞬間、真嗣の口角が僅かに上がる。


ー弁護士さんは、今、幸せ?ー


ーあなた今、幸せ?ー


「うん!」


賢太郎宛に、OK。楽しく飲もうと返信すると、待ち受けにしてるかつての家族写真を一瞥して、口を開く。


「逃げるのはもう、飽きたしね…」


時が経てば、全てが解決する訳ではない。


それでも、あの3人は、家族で歩んでいく道を選んだ。


なら、自分ももう、この気持ちにも、自分自身からも、逃げない。


たとえ報われない愛だとしても、これからは彼の幸せを願う形にしよう。


そう決意して、真嗣はパソコンのキーを叩き、直哉に短く返信した。


ー幸せですよ。ー


と…







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死花外伝-鱗粉を拭う-〜谷原真嗣〜 市丸あや @nekoneko_2556

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