第11話
「暖かい家庭?」
眉を顰める芽衣子に、直哉は薄く笑って言葉を続ける。
「芽衣子さん、若い子は沢山食べなさいって、いつも手料理振る舞ってくれたでしょ?それに何より、春彦と奈津美ちゃんと仲良く幸せそうにしてるの見て、思ったんだ。俺も、ここの子になりたい。この人逹に看取られたいって…」
「看取られたいって、あなたにも両親いるでしょ?なら…」
「いないよ。俺、天涯孤独。親は小さい時に離婚したらしく、施設で育った。だから、家族って言うの…俺分かんないんだ。」
「直哉…」
戸惑いを隠せない春彦の膝に置かれた手を握り締め、直哉は深々と芽衣子に頭を下げる。
「俺は、春彦が好きです。いつか手術して声がなくなって、気持ち伝えられなくなっても、側にいたい!一緒に作品を作って行きたい!…何より、家族になりたいんです。だから、お願いします…」
「直哉君…」
「直哉…」
「酒井さん…」
ボロボロと涙を流しながら懇願する直哉に絆されたか、芽衣子ははあと、肩で息をつき口を開く。
「分かったわ。養子縁組…認めてあげる。」
「芽衣子さん…」
「芽衣子さん…じゃあ!」
「勘違いしないで。あくまで貴方達の愛を尊重してあげただけ。離婚や同居については、少し考えさせて。」
「芽衣子さん…」
「お、大林さん。では、離婚は…」
若干蚊帳の外だった真嗣がそう口火を切ると、春彦は意を決したように、直哉の手を握り返す。
「離婚は、辞めます。芽衣子さん、どんなに時間がかかっても良い。けど、直哉が生きてるまでに、彼の夢を…叶えてやって欲しい…」
「………奈津美が待ってるから。」
そう言い残し、頭を下げる春彦を一瞥した後、芽衣子はカフェを去って行った。
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