第10話

「…………」


月末の日曜日。


市内のカフェで、芽衣子と真嗣達はいた。


春彦と真嗣の口から告げられた内容に、芽衣子は目を点にして呆ける。


「だっ、だかっら、僕の恋人は直哉君で、離婚して、彼と養子縁組したいんだ!」


「冗談じゃない!!」


「!!」


反応が返ってこないので春彦が言った瞬間、芽衣子は火のついたように怒りを露わにする。


「見損なったわ!よりにもよって担当編集とグルになって私を騙そうだなんて!!本命の女は誰よ!言いなさい!!」


「お、大林さん落ち着いて。ご主人は本気です。僕も最初は驚きましたが…」


「弁護士さんまで、この人の詭弁を信じるんですか?!!直哉君、君も知ってるんでしょ?!相手の女!教えなさいよ!!」


その言葉に、直哉は寂しげに笑う。


「芽衣子さん。気持ちは分かるけど、これが真実。俺が春彦を奪った、憎むべき浮気相手。でも、分かって欲しい。分かった上で、俺を家族に迎えて欲しい…」


「本気で…言ってるの?」


「うん。ね?春彦?」


「あ、ああ…本気だ。けど、芽衣子さんとは、別れるつもりだよ。直哉。ケジメはつけないと…」


「春彦…」


そうして見つめ合っている2人をみている内に、芽衣子はクツクツと嗤い始める。


「お、大林さん?」


「バカみたい。芽が出なきゃ私が養って行くって覚悟まで決めて支えてきたのに、なによこの幕切れ…悪夢にも程がある…」


「芽衣子さん…」


狼狽する春彦に、芽衣子は彼の目の前で結婚指輪を引き抜く。


「良いわよ。離婚してあげる。慰謝料も何にもいらない。奈津美だけ頂戴?どうぞお幸せに。」


「芽衣子、ごめん。できる限りのことはするから…」


「で、では、離婚に向けた書類を…」


そうして鞄を真嗣が開きかけた時だった。


「やっぱり、俺たち「家族」になれないの?芽衣子さん…」


「直哉…」


「直哉君、何をぬけぬけと!!人の家庭めちゃくちゃにしておきながら」


「俺、心配しなくても長くないから。」


「えっ?!」


「直哉?!」


瞬く芽衣子と春彦。やや待って、直哉は重い口を開く。


「1年前の健康診断で、喉に癌が見つかった。治療はしてるけど、最近肺にも影が見えてきて、手術しても声を失うだけで根治は絶望的だって言われてる。」


「直哉、そんな話…一言も…」


「言えるわけないじゃん。そんで、何もかもどうでも良くなって、当時付き合ってた恋人とも別れて、ヤケクソだったときだよ。春彦の担当になって、春彦の文章と、あったかい家庭に触れたのは…」



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