変異生物
@HasumiChouji
変異生物
二十年以上、月や衛星軌道で暮し、そして、地球環境への再適応の為のリハビリに半年かかった。
1年の長期休暇の半分が「実家に帰る為の下準備」に使われた事になる。
それでも……帰って来て良かった。
多くは変ったが、変っていないモノも有った。
親は、とっくに亡くなり、兄夫婦が実家を継いでいた。
明け方ごろ、実家を出て、近くの神社に歩いて行く。
木々に囲まれた神社も昔のままだ……。
「叔父ちゃん、何やってるの?」
背後から甥っ子の声がした。
「ああ、子供の頃、ここに良くカブトムシやクワガタを取りに来てね……」
「あれ? そうだったの?」
「うん、今でも、カブトムシやクワガタが居るか見に来たんだ」
そう言って、毎年のようにカブトムシやクワガタが集っていた木に灯りを向け……。
ああ……昔のままだ……。
木の樹液に群がる昆虫……。
……。
…………。
……………………。
何だ、これは?
それは、記憶に有るカブトムシやクワガタより遥かに大きかった。
形も違った。
バッタのような形。
尻にはスズメバチのような大きな針が有り……。
それが……こっちに顔を向けた……。
昆虫の顔じゃない。
良く見ると足の数は8本。
胴体は5つの節から構成されているようだ。
そいつの顔を見た時に思い出したのは……私が地球に居た頃に放送されていた特撮番組に出て来た……髑髏をモチーフにした怪人。
人間っぽいのに、人間でない顔だった。
そいつは……髑髏の口元を思わせる口を、ゆっくりと開き……。
「叔父ちゃん、どうしたの?」
腰を抜かして、悲鳴を上げる私。だが、甥っ子は異様に冷静だ。
「な……なんだ……あれは?」
「あれ? 宇宙じゃ、変異生物の事はニュースになってないの?」
「変異生物?」
「うん、もう今じゃ……元から居た動物を完全に駆逐してるみたいだよ」
「ば……馬鹿な……そ……そんな話……」
「ああ、それと……あいつは……」
その「変異生物」とやらの羽根が細かく震える……8枚の羽根だ。
「悲鳴を上げてる人を襲うクセが有ってね」
「た……助けて……」
「何で?」
「『何で』って……?」
「叔父ちゃん……気付いてないの? そんなに頭が悪くて、よく学者なんて、やってられるね?」
「何を言って……」
「言ったでしょ。『変異生物』は
甥っ子……もしくは甥っ子だと思っていた「何か」が言おうとした最後の一言を聞く前に……その奇怪な生物の針が私の喉元に突き刺さり……。
変異生物 @HasumiChouji
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