06 決着の時

 死婆はハイキックを放った。

 源は体をかがめて避ける。


 拳を握り、『もらった』と声をあげるも、それ以上に大きな死婆の声にほぼ掻き消える。


『受けてみよ、必殺の唐竹割ぃぃっ!』


 死婆は振り上げた足をかかとから源の頭へと力強く下ろした。


「かかと落としだっ」

「源さんまずいよっ」


 親子が悲鳴に近い声をあげる。


 源もすぐに死婆の攻撃を察した。これは下手に逃げて体のどこかにかかとを食らうよりはと、源は頭の上で腕を交差させた。

 死婆のかかとが源の腕の上に落ちる。


 ゴオォッ!


 渦巻く風にタイムマシンのドローンが揺らぐ。一瞬、二人の姿を見失った。


「どうなった?」


 父親がドローンを制御しなおして源達をカメラにとらえる。


 源は倒れなかった! 足元の地面は一層深く沈んでいるが、死婆の攻撃に耐えきったのだ。


『ば、馬鹿な……、このワシの必殺技を……』


 死婆は放心状態だ。

 この機を逃す源ではない。素早く横へとステップすると拳を死婆の腹へと叩きつけた。


『おおぉ……』


 悲鳴とも呻きともとれる声を漏らし、死婆は後ろへと倒れた。


『死婆、敗れたり!』


 源の勝利宣言に、彼の集落の代表者達は歓声を上げた。

 死婆の集落の者達は死婆と同じように信じられないものを見たという顔で固まっている。


『死婆を倒すとは、おまえ、一体……』


 恐る恐る問われた声に、源はふんと一つ息を吐いて、言った。


『そうだな、これからはわしを「竹取のおきな」と呼ぶがいい』


 すがすがしいほどの、ドヤ顔だ。


「唐竹割を取ったからか」

「どうせ安直にあだなつけるなら『シヴァ狩りじいさん』とかにしておけばいいのに」

「この時代、まだインドの神のことは知らないんじゃないかな」

「そうかー」


 死闘が幕を下ろしたことで親子の緊張は吹き飛んでいた。


「戦いが実際にあったことを知れて父さんは満足だよ。帰ろうか」

「うん、けど、この後どうなるの? 本に書いてあった?」

「境界線は元に戻されて、これからはそんなズルはしないよう証文を書いたって」

「うまく収まってよかったね」


 息子の笑顔に父親もうなずいた。


「あの二人がいるならこの辺が戦争に巻き込まれても平気そうだよね」

「そうだなぁ。この辺りは真田氏が治めてたはずだから、……もしかして上田城の戦いで真田氏が勝てたのは、この二人が……」


 なぁんてね。

 親子の笑い声が重なった。


 二人を乗せたタイムマシーンは無事に元の時代に戻っていったのだった。


 めでたし、めでたし。



(了)

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戦国境界線記 御剣ひかる @miturugihikaru

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