吸血鬼の葛藤

一ノ瀬 夜月

第一話 再会

俺は何故、吸血鬼の国の第二王子として生まれたのか?

 こうして、家族と食事をしている時でさえ、そんな事を考えてしまう。


 兄)ジアン、今日の血は結構美味いぞ。お前も飲むか?


 ジ)俺は要らないよ、前にも言ったけど、人の血は飲みたくないんだ。


 父)ジアン!いつまでそんな事を言っているんだ。お前は今年で十七歳、吸血鬼の国の法律上、既に成人しているんだぞ。

 なのに、本来十歳で済ませる「吸血の儀」から逃げ続けて...少しはユワンを見習え!


 ユ)父上の仰られている様に、もう少し吸血鬼らしくなれって。そもそも、何で人の血飲むのが嫌なんだ?

 うーん...確かお前、八年前に牧場から人間の女を逃してたような...。それがきっかけか?


 兄に図星を突かれ、俺は一瞬固まってしまった。それと同時に、八年前の光景が脳裏にフラッシュバックしていた。


 ジ)これを使えば、君を人間の国まで逃がせる。僕は一緒には行けないけど、ずっと君の事を思ってる。


 少女)一緒に行けないなんて嫌だ。私まだ、ジアンと話したい事、伝えたい事沢山あるもん。


 ジ)気持ちは嬉しいけど、ダメなんだ。だって僕は、この国の第二王子で、君は人間の国の貴族令嬢だから。...そろそろお別れの時間だ。急がないと、見張りが来てしまう。

 だから、早くペンダントを身につけて。その後僕が術式を唱えれば、人間の国まで行けるから。


 少女)待って、待ってジアン。私は...


 この時、俺は人間の少女・モネアに魔術具のペンダントを与えて、人間の国に逃すという禁忌を犯した。


 それから俺は彼女の事が忘れられなくて、

人の血を飲もうとすると、モネアの顔が思い浮かんで、罪悪感に押し潰されそうになる。

 だから、今後一生、俺が人の血を飲む事は無いと思う。



 ジ)はい、兄上の仰る通り、俺はあの時から、"人の血を飲む事はしない"と誓ったのです。


 父)この愚か者!吸血鬼としての誇りは無いのか?


 ジ)俺は確かに吸血鬼ですが、人間を単なる食料としては見れません。


 父)くっ、頑固者め。

 

 それならば、吸血鬼の王として命じる


「ジアン・ラスティを人間の国に追放し、人の血を飲むまで吸血鬼の国に帰る事を禁ずる」


 ユ)あの、父上、その罰は少し重すぎませんか?ジアンは人の血を吸った事がない為、魔力が覚醒しておらず、魔法が使えません。

 加えて身体能力も低いため、人間の国から生きて帰って来る保障が...


 父)分かっている、だが強引な手段を使わなければ、いつまで経ってもジアンは成長しない。

 これは吸血鬼の王、ナシャ・ラスティとしての決定だ。だからユワン、お前にも口を挟む資格は無い!


 ユ)...申し訳ありませんでした。


 ナ)ジアンもこの決定には従って貰うぞ。


 ジ)...はい、分かりました。それと兄上、先程はありがとうございました。


 ユ)いや、私は何もしてないが...


 ジ)いえ、気遣ってくれた事が嬉しかったのです。でも、もう覚悟は決まりました。


 ナ)話もまとまった様なので、今からジアンを人間の国に転送する。今身につけている魔術具を全て外せ。


 ジ)外しました。それと父上、仮に私が魔力を覚醒したとしても、転送魔法の術式が分からないのですが...


 ナ)術式を書いた巻物がある、だから心配するな。...転送するぞ!


 その後、父上の魔法によって、人間の国に転送され、俺は見知らぬ土地で目を覚ました。


 ジ)ここは、どこだ?周りに建物は無いし、木がたくさん...。もしかして、森か?


 仮にここが森だとしたら、まずいぞ。森には、日差しを遮る遮蔽物が少ない。今はまだ日が昇っていないが、朝になったら俺は死ぬかもしれない。とりあえず、安全な場所を見つけなければ!


 それから数十分後、小さな洞窟を見つけ、避難したは良いものの、次の問題が発生した。


 ジ)洞窟に居たら、食料が確保出来ない。夜になれば外に出られるが、動物のほとんどが夜行性。俺の身体能力じゃ、とても...


 案の定俺の予想は的中し、3〜4日飲まず食わずの生活が続いた。


 ジ)もう限界だ、どんな動物でも良いから、血を、吸わないと、俺はもたない。血、血が欲しい。


 朦朧とする意識の中、独り言を呟いていると、風に乗って甘い血の香りが漂ってきた。


 ジ)匂いの方角は...西の方か、行くしかないな。


 わずかな血の匂いをたどり、着いた場所には、手にナイフを持った少女がいた。少女は

首元にナイフを当てていて、傷から血が垂れている。


 ダメだ、相手は人間の少女。俺は、人の血は飲まないって誓ったんだ。でも、本能が抑え切れない。今すぐ、吸い付いてしまいたい。   


 ジ)すまない、少しだけだから、我慢してくれ。


 そう言って、少女を捕まえて、襲い掛かろうとした時、少女が俺に語りかけた。


 少女)もしかして、ジアン、なの?


 8年ぶりに聞いた、けれど間違いない。

彼女は...

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