第三話 葛藤
ジ)そうだよ、君の名前を教えて欲しい。
モ)もっ、モネア・ベラーカと申します。何故、私に声を掛けたのですか?何か失礼な事を?
ジ)いいや、失礼な事はしてないよ。君の瞳が綺麗だったから、気になって。
それに年も近そうだし、これからも話し相手になってくれないかな?
モ)えっと...
いきなり話しかけてきて、瞳が綺麗って何事!?
でも、吸血鬼なのに見下した態度ではなく、優しい感じ。この子の事、もっと知りたいな。
モ)はい、私で良ければ。
それから数ヶ月間、例の吸血鬼・ジアンは、毎日私の元へやって来た。
最初は緊張して話が弾まなかったけれど、今ではお互いの趣味の話や、家族の愚痴で盛り上がれる位仲良くなった。
ジアンは、私が話したい時は聞き役になり、話題が尽きかけた時は、すぐに次の話題を提供してくれる。
家では、誰も私の話なんて聞いてくれなかったから、すごくありがたい。
彼と居るだけで、私の心は和やかな気持ちになる。
モ)この時間がずっと続いて欲しいな〜。
〜王城にて〜
ユ)お前、間違いなく父上に怒られるぞ。流石に、あの人間に肩入れし過ぎだ。
ジ)そうかな?確かに最近は、モネアの事ばかり考えてはいるけど、俺は後継者になろうとも、ましてや反旗を翻そうともしていないよ。
ユ)違う、そうじゃなくて、別の意味で困る事になるんだ。はぁ、俺は外で待っているから父上の所へ行ってこい。
こうして送り出された俺は、玉座の前で父上と対面した。
ナ)最近、良くない噂を耳にしたのだが、思い当たる節はあるか?
ジ)モネア...俺が交流している人間に関しての事ですか?
ナ)あぁ、そうだ。お前は吸血鬼の国の第二王子でありながら、人間などと関わって...
いいか?人間は食糧だ。それ以上の感情を持つな。
ジ)違う!食糧ではありません。彼女達とは言葉を交わし、意思の疎通が出来ます。俺達と大きな違いはありません。
ナ)何を言う!その考えは異端だ。王族として、我々は民の規範となるべき存在だ。
お前はまだ八歳で、そろそろ九歳になる幼子だが、吸血鬼の国の王子なのだ。自覚を持て!
ジ)でも、それでも俺は...
ナ)改心する気が無いのか。なら、二つの選択肢をやろう。今すぐそいつを消すか、約一年後の吸血の儀の相手として選ぶかだ。
ジ)なっ、そんなの、選択肢が無いに等しいですよ。どちらも地獄だ。
ナ)今すぐは急ぎすぎか。数週間の猶予をやろう、よく考えろ。
ジ)...分かりました、失礼します。
ナ)行ったか。おい、ジアンに監視を付けろ、早急に。
従僕)はい、畏まりました。
ユ)終わったみたいだな。なら、これからボードゲームでもどうだ?
ジ)すみません、用事があるので失礼します。
ユ)何か、焦っていた?
〜牧場にて〜
ジ)モネア、とても大切な話がある。
モ)どうしたの?一日にニ回も来るなんて。
ジ)先程、父上から通達された。数週間以内に、モネアを消すか、吸血の儀の相手にするかを選べと。
モ)...本当なの?何かの冗談ではなく、私、殺される?
ジ)絶対にそんな事はさせない。けれど、もう一方の選択肢も選べないんだ。
前に兄上に聞いた話だと、初めて人間から吸血する時は、抑えが利かなくなり、相手を殺してしまう例が多々あるらしい。
モ)えっ、それだと二択の意味なくない!?むしろ後者の方がキツい...
ジ)だから、逃げるんだ。準備ができ次第、人間の国へ帰って欲しい。
モ)人間の国へ...ジアンも一緒に来てくれる?
ジ)恐らく、それは無理だ。君は人間の貴族令嬢で、俺は吸血鬼の国の王族だから。
モ)...そっか、じゃあ、準備が出来たらまた来てね、待ってる。
ジ)うん、すぐ行く。
〜二週間後〜
ジ)すぐに行くとは言ったものの、監視が鬱陶しくて、自由に動けない。こうなったら、就寝時間に抜け出すしかないか。
〜朝五時、牧場にて〜
ジ)モネア、起きてくれ。今すぐに人間の国へ君を転移させる。
モ)むにゃ、ジアン?久しぶり。今起きたばかりだから眠くて...
ジ)そんな事を言っている場合じゃないんだ。今、檻の鍵を開けるから少し待っていてくれ。
モ)その鍵、まさか隠し持っていたの?
ジ)兄上に少し協力してもらって...よし、鍵が開いた。次に、このペンダントを首につけて欲しい。
モ)これが魔術具なんだね、国家間を行き来出来ると噂の。これを身につけて、ジアンが詠唱をすれば、私は国に帰れる。
でも、嫌だよ。私は、ジアンと一緒に居たい、まだ話したい事、伝えたい事たくさんある。だから...
あの時、本当は伝えるつもりだった。貴方が好きですと。貴方になら、血を吸われて殺されてもいい。それ位、貴方を愛していますと。
でも、八年が経った今でも、その想いは変わらなくて、だから...
モ)貴方には、返しきれない恩がある。でも、それだけでは無いの。
貴方と一緒に過ごす内に、私はジアンの事を好きになっていたの。私を必要として、大切にしてくれたのはジアンが初めてだった。
貴方の事を愛しています。だから、おいで。私のもとへ踏み出して。
ジ)待ってくれ、そんな事言われたら...
ダメだ、モネアの想いを聞いたら、胸が締め付けられる。理性という名のストッパーが外れてしまう。
モネアが大切だから、決して傷つけたく無い。でも、もう止まれない。
ジ)ごめん、ごめんね。モネア...
"ガブっ、ジュルル"
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