第17話 おつかいコードXXX
あの月、あの日、あの時刻、父が死んだ。2085年4月4日17時57分。
父の死亡が確認されてから数日と経たないうちに、緋出は故人面会申請を厚労省の故人情報管理局に提出していた。それが一か月以上たった今ようやく、認可されたのである。
「父さん?」
「ああ。ヒデか」
緋出の目の前には、父がいた。2085年4月4日の早朝、彼が最後に見た父の姿と何ら変わりなかった。トゥルースペースの一画に割り当てられた父の
「父さん、久しぶり。これ、中身は分かんないけど差し入れに」
そう言うと緋出は右手の
「ありがとう。これはなんだろう?」
データパックを渡した緋出の姿はいかにも無愛想かつぶっきらぼうで、
「ヒデぇ、こういうのは父さん、よろしくないと思うなあ」
「いやいや、これ母さんからのやつだって!濡れ
「濡れ衣ならぬ濡れ透けとはなあ」
父はそう呟きながら、中身の本をしげしげと眺めていた。ここが
「母さんが持ってけって言ったんだよ。あーあ、こんなおつかいがあるかよ……」
あの事件から一週間ほど経った頃、母(と僕が)父の書斎に入ったのは、エロ本を探すためだったっけ。緋出はそのことをようやく思い出した。その部屋で百鬼杖を見つけ出したのだ。父の形見として。結局エロ本は見つかったんだろうか。そして今渡した本を選び出す上で参考になったのだろうか。そうした疑問を振り切って、かねてからの疑問を話題に
「それより父さん、あの杖のことなんだけど」
今までにこやかにしていた父の表情が、変わった。
「手に取ってくれたんだな」
「うん。今は
緋出は牛王坊を召喚してから今に至るまでのあらましを父に語った。あまりにも多くの出来事が
「色々と説明不足だったことは俺にも分かっている。だがその時の俺たちに残されていた時間は、あまりにも少なすぎたんだ」
「ヒデ、お前が子供の頃、
父が唐突に話題を転じてきたことに、緋出は意表を突かれる思いだった。天蚕糸神社の天狗様。確かに覚えている。牛王坊を呼び出したあの日、前にも天狗に会ったことがあるような気がしていたのだ。
「うん、何となく。でもあまりにも荒唐無稽な記憶だから、子供の頃見た夢だったんだって、自分に言い聞かせてた」
「そうか。覚えていてくれたのか」
父の口元がちょっとだけほころんだ。
「あれはな、夢なんかじゃない」
「彼の名前は、
反魂法師―近未来吉備妖怪譚 飯山直太朗 @iyamanaotarou
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