第1話

おぼつかない足取りで先日から寝泊まりしている宿屋 月明かり亭 に帰ってきた。借りてる部屋のベッドに倒れ込むと、ダムが決壊したように、ポロポロと涙がこぼれてきた。

10数年の努力をバカにされ、笑われ、何も言い返せずにただ帰ってきた自分自身に腹が立ち、悔しかった。散々泣き散らかし、そしてこの日はそのまま寝てしまった。


翌朝、腫れぼったい目を擦り、少し冷静になるとふと、疑問に思った。「微剣刻印」なんて聞いたことない。刃渡り25cm以下を装備可能な短剣刻印が1番短いと思っていたのに、さらに短そうなナイフだなんて、そう思い刻印証のステータスを開く。


<微剣刻印>

加護:なし

刻印レベル:1

装備可能刃物:刃渡り15cm以下

スキル:レベルアップ


「じゅうごせんちいか!?」

包丁より短いじゃないか…

装備可能刃物が15cm以下なんて聞いたことがない。それにスキルのレベルアップってなんだ?と思いスキル:レベルアップを選択


スキル:レベルアップ

刻印レベルの数だけ刃物を装備可能


「え、これだけ?」

つい声に出てしまった。初期スキルなんて大したのが着いてるわけない、それはわかっていた。

刻印レベルは地下世界、ヘイムに居るモンスターを倒さなければ基本的に上がることは無い。おまけに常人の探索者の刻印レベルは高くてもレベル8が限度だ、8本のナイフを装備できたとて何になるのだ。手が足りない。そもそも15cmの刃物でモンスターを倒すことは可能なのか。

全く使い物にならないスキルだろう。

考えても変わることは無い、とりあえず探索者登録をするために、今日は出かけよう。

1階の食堂で朝食を済ませ街へ出かける。

探索者登録はシーカーセンターで刻印と刻印証、装備している刃物を最低1つ登録しなければならない。なので最初の目的地は刃物屋だ!

商業通りに出ると流石は中央都市ケスキ、そこかしこに刃物屋が並んでいる。

僕の所持金は小さい時からコツコツと貯めてきた13万フレイと両親がくれた路銀と宿代の残り8千フレイ合わせて13万8千フレイだ

コレで初心者向けの革鎧とあるかも分からない戦闘用ナイフを買わなければならない。

商業通りをしばらく歩き、そこまで高くなさそうな店を見つけ入ってみる。店内は樽に無数の直剣、曲刀、長剣が刺さっていて壁に戦斧や大鎌がかけられている。どれも値段は10万フレイ程度、しかし刃渡り15cm以下の刃物なんてものは当然置いていないようだ。

カウンターのそばに革鎧がいくつか置いてある。まずは革鎧を選ぼうと物色していると奥から、スキンヘッドに無精髭、いかにもな風貌をした中年店主が出てきた。

「にぃちゃん小さいな!これから探索者登録か?刻印はなんだ?」

「これから探索者登録なので装備を揃えようと思って、刻印は……」

そこまで言って言葉が詰まった。昨日あれだけバカにされたんだ。この店主もバカにして嘲笑うに違いない。

「刻印は秘密で…」

そういうと中年店主は

「秘密だなんて!聖剣刻印でも貰えたのか?まぁ無理に教えなくていい、どうせお前さんの選ぶ刃物でだいたいわかる」

そう言って笑ったが、昨日のように嫌な気分にはならない。

(この人はいい人で僕の刻印もバカにしないかもしれない)

そう思い刻印証を見せた。

「びけん??なんだこれ」

店主が不思議そうな顔をしていたので

「ナイフです。15cm以下しか装備できないんです」

すると店主は

「ガッハッハッ15cmなんて包丁以下じゃないか!こんなのでどーやってモンスターを倒す気でいるんだお前さん!お家でもママのミルクでも飲んどけよ!」

声も出なかった。勝手に信頼し勝手に期待した僕が悪い。しかしこんなにも言われるなんて、

「いやー傑作だな!こんなに笑ったのは久しぶりだ!」

一通り笑い終わった店主が言う。居てもたってもいられなくなり店を飛び出した。

これから初対面の人には絶対に刻印を明かさないと誓った。


またしばらくして、似たような店を見つけたがここにも15cm以下の刃物なんか置いてる様子はなく、革の胸当てと小手だけをを8万フレイで買い、店を出た。途中店主に話しかけられたが、先程のショックから無視をした。


そして3軒目の刃物屋を見つけ入るとすぐに奥から細身の店主が出てきた。

「いらっしゃい!何をお探しですか?」

明るく優しい声だが僕はもう騙されない。

「なるべく小さな短剣をください」

刻印がバレないよう短剣と言う言葉を使って聞いてみた。すると店主は奥から見るからに小さめな短剣を持ってきた。

「コチラがうちで1番小さな短剣です。持ってみますか?」

無言で頷き、その小さな短剣を握り持ち上げようとすると、

「いっ!」

バチッと痛みが腕全体に走った。どうやらこの短剣は18cm程はあるようだ。

「これより刃渡りの短いものはありませんか?」

勇気を出して聞くと、

「コレより小さいとオーダーメイドになります。でも、商業通りの南の方に短剣専門店があるようなのでそちらに行ってみては?」

と親切に教えてくれた。やはり刻印を明かさなければある程度普通に優しくしてくれる。刻印さえ隠し通せば。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

刃渡15センチの下剋上 イラクサ @irakusa_mihare

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ