脱稿’sハイ

 カクヨムに御座す、主にカク皆様にはおありだろうか。脱稿’sハイ。


 ランナーズハイ、走ったあと気持ちよくなるあれ。

 ワーカーズハイ、労働のあと元気になるあれ。

 脱稿’sハイとは長短に問わず物語を書き終わったあとに襲われる開放感とも高揚感ともつかないあれである。なお前置きの2つは身体に悪いそうだ。では脱稿の方も言わずもがなだろう。


 人によっては「最高な話が書けた。マジで俺天才」といった全能感にもとらわれることもあろう。寝て起きて読み返してみて憤死するほどの誤字脱字や急転直下のご都合展開、物語の粗を見つけ死にたくなるあれだ。正常な自意識よ、ただちに殺してくれ。

 私は書いた話が長ければ長いほどそうなる傾向がある。


 とは言えども公募に出せるような長さの長編作品なんて実は4回しか書いたことがない。10万字超ともなると内2回である。

 つい3日前とかにその10万字を書き終えたのだが、まさに今脱稿’sハイの真っ只中である。

 中身の出来とかはもう夕方のかすみ目の如く霞み、全能感に酔い、ご飯は一層美味しくなり、もうしばらく何も書かなくていいかな……の気持ちになりかけている。文フリ広島の当選案内が来次第死ぬやつだ。書きかけの短編が6、7本ワークスペースに転がっているのにすべて1文字たりとも進んでない。


 長編、書き溜めて投下するタイプの方と毎日進捗を捻り出して連載する方といらっしゃると思うが、私は完全に前者だ。一度だけ進捗捻り出し長編に挑戦した事があるが、広げた風呂敷を畳めぬまま10万字を超えてしまい死ぬかと思った。休職中の身であった当時ですらそんなだったから、世の連載形式小説書きの皆様には頭が上がらない。

 普段は掌編・短編が主戦場だから、長編はいつも勝手が分からないまま書いている。書き始めて、また1行書き進めて、末尾まで書き終える。それが毎度苦しくて、早く終えたくて、でも楽しい。多分マゾなんだろうと思う。


 書いてる最中は読みたい本やらやりたいゲームやらを何もかも我慢し目の前の作文に注力するのだが、書き終えてしまうととんとそのやる気が無くなってしまう。先月はあんなにあつ森やりたかったのに、今は文鎮と化したSwitchが郵便物の山に埋もれている。マスターのコーヒーがもはや懐かしい。


 生活と情緒と社会性に深刻な影響をもたらす創作活動。

 話が思いつく限りは、来年も何らかの長編が書けたらいいなと思う。けどそれは目の前の原稿を読み返していないから言える言葉だ。


 ハイに告ぐ。正常な意識に追いつくな。

 書き終わった君よ、追いつかれる前に振り切っていけ。

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あゝめくるめく碌でもないこと日記 月見 夕 @tsukimi0518

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