リズミカルで細やかな言葉遣いや独創的な世界観に引き込まれる人は多いと思いますが、同じ世界観の過去作を先に読むと、キャラクターたちに親しみが湧いて倍以上楽しめます。私はもう、ラクロワ先生の暴言を聞くだけで嬉しくなるようになりました(変態的?)。
過去作との違いで言えば、今作では「犯罪」、つまり人の悪意を始めて主題にし、対峙するお話になっています。今までは退廃的でギスギスしたコミュニケーションはあったものの、純粋な悪意をモチベーションに行動するキャラクターはいなかった。でも相変わらずと言うか、「悪人」の顔や内心は(今のところ)一切見えない点が不気味です。私たちが読んでいるのは、それぞれ異なった優しさを持った魅力的なキャラクターたちがいる、歪ながらも居心地のいい箱庭のような世界なのでしょう。その外側には実際はあらゆる個人と社会の悪意が満ちていて、ただ見えていないだけ、と釘を刺されるような感じがしました。箱庭は結局脆いのかもしれない。
一方で、そうした不安定で小さな世界の大切さを教えてくれるのが、この作者様の作品の本質だと思います。私たちはファンタジーと言うジャンルでは(もしかすると現実でも)世界の破局や特定の個人のヒロイックな「運命」に気を取られがちですが、そもそもあらゆる悪や絶望は個々人を媒介して形になるものだし、逆に人間にとって普遍的な希望も、そうした小さな世界に戻ってきて初めて見つかるのではないか……と言う、そんな予感までします。そこまでは作者様の意図ではないのでしょうけれど。
登場人物たちの世界がそれぞれどこに向かうかはわかりませんが、どうなろうと、最後まで見届けようと思います。感動するから楽しみ、とか苦しくなるのは嫌だ、と言うのではなくて、瞑想するように味わっていたい。すべて受け入れられるわけではないけれど、ただ認識して、受け止めたい。私にとってはそんな作品です。
なお、今作では現時点(2-03)で、一部のキャラクターの話し方についてちょっとした謎があります。この世界観の「魔法」においては言葉が重要なので、精神的に、そしてもしかすると物理的にもなんらかの「意味」があるのでしょう。そんな考察要素もある作品です。