第七話
三虎は無言、無表情。
やりづらい、と思いつつ、
「もし、オレが手を出したら、どうしますか?」
三虎はぐいと
「なぜオレに訊く。オレは
とだけ言った。
「じゃ、手を出してもいいんですか……?」
机に浄酒と塩を置いて、二人は真向かい、倚子に腰掛けている。
三虎はこちらを見てハッキリと、
「古志加がいいなら、いいだろ。オレに訊くな。」
と言った。
薩人は慎重に三虎を見る。
……気づいてないのか。
今日の昼間、お堂で、古志加のあごをとったオレを睨みつけたときの顔は、
───手を出すな、古志加を離せ、
と言っていた。
気づいてないのか。自分の感情に。
三虎が宙を見ながら、
「ちゃんと妻にしろよ。泣かせるな。
……ああ、お前は
と言った。
「え。」
と薩人はどきりとして
三虎が目を細め、
「やっぱダメ。
お前は妻を持っても、
古志加を泣かすから、……ダメ。」
「ええ。そんなあ……。」
と薩人は頭をかくが、
「ダメ。手を出すな。ダメったらダメ。この話はこれでおしまい。」
と三虎は強引に話を切ってしまった。
「じゃあ、三虎が
薩人が微笑みつつ聞く。
三虎は、む、と顔をしかめ、
「オレは、
妹はもたない。」
「もったいないですよぉ。」
薩人が
そこで三虎はちょっと笑って、
「それに女なら、遊浮島に良い
身も心もとろかすような、良い女がな。
オレも、遊浮島通いがやめられないのさ。」
と言った。
二人の
月には
* * *
薩人は礼を言い、
三虎の部屋を辞した後、
月をかくす雲を見上げながら、
(まったく……。そんなガチガチにかまえて考えなくても、良いだろうよ、三虎……。)
と思った。
従者はいつでも主のかわりに盾とならねばならないか。
答えは──是。
そのための従者だ。
なら従者は妻を持てないか。
答えは──否。
そんな決まりはない。
たとえ主のかわりに、明日死のうとも、好きに妹を、妻を持てば良いのである。
それが普通だ。
なぜ三虎は妹を持たない、というのだろう?
なぜかは薩人にはわからない。だが、
「ダメ。手を出すな。ダメったらダメ。」
あの言葉は、薩人にだけむけた言葉ではなく、三虎が、自分自身にもむけた言葉に思えてならない。
(まったく、不器用だな、三虎。)
三虎は、十二歳から
もう八年たつ。
もちろん、その歳で団を仕切れるはずもなく、実際は、団長見習い。
三虎はいつもムッとした顔をしていて、可愛げのないガキだったが、
さすが
三虎は卯団長にして、大川さまの従者。
卯団は、大川さまの意を最も近く、素早く汲む、腹心の団となる役割だ。
皆で三虎を可愛がってやってきた。
もちろん、薩人も三虎がかわいい。
古志加を腕に抱いた
薩人はそれで良い。
だが……。
古志加はまだ幼い。
しかし
古志加も……、
そのとき、泣くことにならないか、三虎。
「さっさと
つい口に出してしまう。
三虎は
もう五年も、ずっとそれを続けている。
薩人にとっては、驚異的なことだ。
たしかに
薩人と三虎は、同じ
そんなに恋うてるなら、さっさと
そのほうが莫津左売も喜ぶだろうし、遊浮島から出す金も、屋敷をどこかにかまえてやるのも、それはそれは金がかかるが、三虎にできない額ではない。
そう、吾妹子を二、三人持つのは、
五人……になると多いか。
六、七人、なかなかそこまでいく
……いいなあ!
オレだったら、八人、九人……、
通うのが大変だなあ!
「オレだったら、あの子とあの子と……、ああ、あの子も外せないなぁ……。」
明日、月夜であれば、絶対遊浮島へ行こう。
ほろ酔い気分でニヒニヒ笑いながら、
薩人は
↓手描きの挿し絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330659613423512
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます