第4話 怪しげな探偵社
「さぁーくぅーらっ!」
大声を出して誰かがとびかかってきた。こんなことをするのは一人しかいない。私は跳びかかってきた誰かに対して遠慮なく足の裏を向けた。跳びかかってきた誰か─朱莉は顔面に靴の後をつけて倒れ込む。
「流石に酷くない?それは。」
「急にとびかかってくる朱莉が悪いんだよ。」
小さい頃からの付き合いでもう慣れきってしまったハイテンションに対して私は塩対応をする。
「で、何があったの?」
朱莉がハイテンションに話しかけてくるのは決まって何か伝えたいことがあるときだ。
「これを見せたかったんだよ!!」
朱莉が見せてきたのはスマホに映っているとあるネット記事だった
「怪しげな探偵社?なにこれ。」
「なんか霊が居そうじゃない?」
「別に霊の気配なんて感じないけど?」
「そうなの?でもでも!仮面をつけた名探偵、性別不明の助手、すべてを見透かすようなバイトの少女、美人すぎる情報屋、唯一平凡な社員…霊とか関係なくても調べてみたくない?」
紹介の仕方が失礼すぎる。
「こんなのにかかわらないほうがいいでしょ…事件に巻き込まれたりしたらどうするの。」
「すでに霊を祓ったりしてるんだから今更でしょ!」
「いやいやいや、先生に憑いた霊を一体祓っただけでしょ。こんな変な人たちと関わって殺されたりしても知らないよ?」
「えー、やだやだ行きたいー!」
急に子供っぽくなった。まあ、殺されそうになっても簡単に阻止できる(であろう)けど、絶対に行きたくない。行きたくない理由が面倒くさいからだとは口が裂けても言えないが。そんなことを考えているとしびれを切らした朱莉が言った。
「一緒に来てくれたら神社のお仕事手伝ってあげてもいいよ。」
何を隠そう。私は毎日親に神社の掃除や賽銭の管理などを手伝わされている。面倒くさいし、遊ぶ時間は取れないしで困っていたのだ。だから私は即答した。
「行く。」
👻👻👻
ネット記事に書かれていた住所の場所についた。出迎えてくれたのは金髪でポニーテールの少女。セーラー服を着ていて、背格好などからもこの少女は高校生で私達と同い年ぐらいに見える。きっとこの少女がネット記事に書いてあった『すべてを見透かすようなバイトの少女』であろう。何か違和感があるのは気のせいだろうか。
「はじめまして。私はここでバイトをしている
「私達、これを見たんです。これが本当なのか知りたくてきました!」
朱莉が自分のスマホでネット記事を見せ、秋さんに見せた。
「ふーん。この間記者が来てたけどこんなふうに書かれてたのか…『すべてを見透かすようなバイトの少女』…」
それから秋さんはほんの少しだけ黙った後
「あの日は新月だったね…」
とつぶやいた。
するとその時
「ん?依頼か?へー、高校生まで来るとは、ここも有名になったもんだなー!俺とお前が会社建てたばっかりのときは全然依頼が来なくてもやし生活だったのに。あの頃は辛かったよな、お前もまだ覚えてるだろ?名探偵!」
急に奥から二人組が現れた。
片方はピンクの長い髪をポニーテールにし、(それでも腰ぐらいまで髪があるが)前髪で片目を隠している袴を着た人だ。そしてもう一人は何も喋らず只こちらをちらっと見てすぐに奥へ引っ込んだ黒髪ロングで仮面をつけた女性。きっとこの二人は『性別不明の助手』と『仮面をつけた名探偵』だろう。あの記事を最初に見たときは何を言っているんだと思ったが、実際に見てみると記事のまんまだった。これは納得する他ない。
「依頼に来たんじゃないですよ。アオイさん。探偵社に関するネット記事の真偽を確かめに来たそうです」
秋さんがそう言った。アオイというのはピンク髪の助手だろう。漢字が分かれば性別もわかるかもしれないが、今のところは性別がわからない。一瞬女性に見えるが、一般的に男性が着用する馬乗り袴を着用しており、男性のような話し方をし、「俺」という一人称を使用している。ただ、女性でも馬乗り袴を着用しても良いことになっており、一人称も話し方も性別ごとに決められているわけではないからなんとも言えないところだ。考察しがいのある人物だと思う。
「ふーん。俺の名前は
男だった。青井さんは記者にも伝えたと言っているが、残念ながら記事のどこにも性別は書かれていなかった。書かない方が面白いと踏んだのだろう。そう察しがつく。なぜこのような格好をしているのかはわからないが、なんとなくそうやって人を混乱させたいのかなと思った。
「ま、いいや。依頼じゃないんなら聞かなくていいや。また依頼があったら呼んでくれ。」
そう言って青井さんはどこかへ行ってしまった。
「さっき居た仮面の名探偵っていう人は何なんですか?なんで仮面をつけているんですか?」
よくもまあズケズケときけるものだ。朱莉の辞書に『プライバシー』という言葉は無い。だが秋さんは朱莉の無礼など気にせず普通に答えてくれた
「極度の人見知りらしいよ。でもあんまり聞かれたくないと思うから詳しくはきいてない。というかあの探偵さんに至っては名前も知らない。みんな探偵って呼んでるし。」
「へー。ところで記事に書いてあるあとの二人はどこにいるんです?」
朱莉の辞書には『遠慮』という文字も無い。
「平凡な人は今浮気調査で張り込み中。本当にどこにでもいるような平凡な人だから会う必要もないんじゃないかな。」
「美人な情報屋っていうのは?」
朱莉の口は閉じることを知らない。それでも秋さんはちゃんと答えてくれる。
「情報屋というか、常々いろいろなところから情報を持ち帰ってくる社員だね。お金払って情報買ったりはしないよ。…その2人の写真あるけど見る?」
秋さんが取り出したスマホに映っていたのは黒髪で真面目そうな男の人だった。どこか緊張しているようにも見える。
「この人、
秋さんは苦笑いでそう言った。確かに記事を見ているだけでも普通とは違うと感じるが、実際に会ってみると本物の変人達なんだなと思った。
「美人な情報屋っていうのはこの人かな。」秋さんがスマホを操作してその人の画像を見せてくれる。その写真に写っていたのは黒髪ロングの美人で、20歳を少し越えたぐらいに見えた。
「え!美人!!この人の名前は?」
朱莉のテンションが更に上がる。
「この人はね、
秋さんはいきなりこっちを向いた。
「君さっきから喋ってないけど大丈夫?」
これはチャンスだ。私はこの白銀さんを見てとある秘密に気づいてしまった。ここに来て秋さんにあってから感じていた小さな違和感。その正体もわかった。今を逃したらもう言うチャンスはないだろう。来る前、危険だと朱莉に釘を指していたのになんだが、私は意を決して言ってみることにした。
「この女性と仮面の探偵さんは同一人物ですよね?」
秋さんが一瞬驚いた様に見えたが、すぐにまたニコリと笑ってきいた。
「なんでそう思うの?」
「…信じてもらえるかはわかりませんが、私には霊感があります。人にはいい霊が悪い霊かは人によって違いますが、必ず一体の霊がついており、その霊が他の人と被ることはもちろんありません。探偵さんとこの人の霊が同じなのです。」
朱莉が驚くような納得するような表情をしている中、秋さんは少し考え込む様な表情をして小声でつぶやいた。
「この世のものではないものと接触できる能力…話に聞いてはいたけどまさか会えるとは…」
「そしてもう一つ、私はここに来てあなたを見てからずっと違和感がありましたが、この写真を見て霊に注目したことで違和感の正体に気づきました。」
「違和感?秋さんは普通にいい人そうだよ?年も近いだろうし…」
「…秋さん、貴方に霊はついていませんね?何かはわかりませんが、霊ではない何かが憑いている…この世のものではないが、あの世のものでもない…」
私が秋さんに憑いている何かの正体を見極めようとしたとき、秋さんが話し始めた。
「こんな話を知ってる?この世界の創造主と運の悪かった少女の話。」
秋さんが聞くと朱莉がテンションMAXのまま答える。
「あ、私知ってます!この世界を作った『ニコニコスマイル』は事故でこの世界の住人である少女と一体化してしまい、そのままこの世界に住むことになったって話ですよね。その後、少女のほうが普段活動して、新月の日だけはニコニコスマイルがその体を使うようになったんです!」
「その話なら私も知ってる。たしか、その二人が一体化したことで、ニコニコスマイルの能力が弱まって、この世界の住人は自由に活動できるようになったんですよね。でも、ニコニコスマイルの能力は編集能力として少しだけ残り、今は心の中の世界で二人が話し合いをして、編集能力の使い方などを決めたとか。」
そこまで言うと秋さんは嬉しそうに補足をした。
「そうそう。二人ともよく知ってるね。ちなみに2人が心の中で話し合いをしているとき、この世界は時間が止まっているから誰も話し合いをしていることに気づかないし、その人が少女とニコニコスマイルが合体した姿だと気づけないんだ。まるで、今の君たちのように。」
今の私達のように…?
「…その言い方なら、あなたはその、『少女とニコニコスマイルが合体した姿』だということになりますけど。」
すると、秋さんが少し目を見開き、また微笑んだ。
「正解だよ。それに気づいたのはもちろんきみだけ。…また新月の日においで。その時は私じゃなくニコニコスマイルだから。バイバイ」
秋さんが話し終わってから、瞬きをする間もなく視界が真っ暗になった。
気づいたら私達は─朱莉が突進してきた直後に戻っていた。間違いない。朱莉の顔についた靴のあとも、時計の時間も、カレンダーの日付も戻っていた。だが私と朱莉の記憶だけはそのままだった。
👻👻👻
新月の日
私達はまた探偵社に来ていた。朱莉はともかく、私の好奇心も抑えられなかったのだ。ニコニコスマイルに会えるということはこの世界の始まりなどの貴重な情報が聞けるということだし、なにより私がなぜ霊感を持って生まれてきたのか、なぜ朱莉が超能力者として生まれてきたのか、それを聞くことができる。私達はそれによって人生を少し狂わされてしまったのだ。もちろん、秋さんが嘘をついている可能性がまったくないとは言えない。だが、秋さんはネットニュースを見てすぐに新月の話を口にしていた。もしこの話が嘘なら、秋さんは私達にあってすぐこの展開になることに気づいていたということになるし、何よりあれは考えて出した発言ではなく、つい口に出てきた発言だった。
そんなことを考えている間に着いたようだ。
少し緊張しながらドアを開ける。
その瞬間─周りの風景が変わった。というより、違う空間に飛ばされたと言った方がいいだろうか。そこは、非現実的な空間。言うなれば、再現CGのようなところだった。どこまで続いているのか分からない空間。薄暗く、周りには何もない。空にさえ何も無い。地面にはマス目のような模様が薄くついているがそれだけだった。一体何が起きたのか考えていると声が聞こえた。
「ウッフフフ、君たちから見たらはじめましてかな?私からしたら毎日のようにいじっていた比較的お気に入りのお人形だけどねー!」
この空間に場違いなテンションの声は秋さんの口から発せられたものだった。が、この前会った秋さんとはまるで別人だった。表情も前あった時とは違う、奇妙なほどの笑顔を全く崩すことなく話しかけてくる。感情が全く読めない。今日は新月。やはり、別人なんだろう。中身はニコニコスマイルだ。すると朱莉は目を輝かせ、言った
「あなたがニコニコスマイル?秋さんと言った一体化してるのはホントだったんだー!!」
「そうだよ。君は意識を操る能力者、朱莉ちゃんだね?」
「私は朱莉だけど…意識を操る能力者って?」
「へー、気づいてないんだ。私が君たちを制御できなくなってからみんながどんな風に過ごしてるのかと思ってたけど…」
ニコニコスマイルには聞きたいことが山ほどある。だがとりあえず一つづつ聞くことしよう。
「ねえ、ニコニコスマイル。私たちの能力について教えて欲しい。私に霊感があったり、朱莉に超能力があることについて。」
するとニコニコスマイルは相も変わらず奇妙な笑顔でこっちを見、ゆっくりと口を開いた。
「この世界には異能力者とふつーの人がいるんだ!異能力者は私のお気に入りだよ!お気に入りは私がいっぱい気にかけてちゃーんと名前も覚えてる!でもふつーの人のことはほとんど覚えてない!記憶をもう1人のとこに置いてきたのかなー!」
ウフフと笑いながら話すニコニコスマイルは楽しそうにも見えるが、何も考えていないようにも見える。するとニコニコスマイルはいきなり朱莉を指さし、言った。
「君の能力はねー、超能力とか言ってるけど、意識を操る能力なんだよねー。簡単に言うと、心を呼んだり、記憶を書き換えたりできる能力!超能力って言うほど万能じゃないんだー。超能力じゃなくてガッカリした?」
だが、朱莉の返事を待たず今度は私を指さして言った。
「君の能力はこの世には無いものと接触できる能力!君が幽霊を見たり退治できるのはそういうことだよ!」
「…なんて私たちにこんな能力があるの!?私たちはこの能力で苦労してきたんだよ!」
私がそう言うとニコニコスマイルは表情をそのままに、口を開いたが、その瞳は先程より理性を失っているかのように見えた。
「苦労?何言ってんの?君たちが勝手に自分の能力隠して苦しんでただけじゃーん!さっきも言ったよね?異能力者は君たち二人だけじゃないんだよ?ほとんど公にされてないだけで政府とかも異能力者に関しての取り組みを進めちゃってるよ!本当は魔女狩りとかあって欲しかったけどね!」
ウフフと笑いながらニコニコスマイルは言う
「ふざけないで!苦しめるために私たちを作ったみたいに言わないでよ!」
「そうだよ?苦しめるために作ったんだよ?きっとそうだよ!もう一人はそう思ってないみたいだけど、もっと苦しんでくれてもいいのに!」
「黙って!!」
今までほとんど喋っていなかった朱莉が叫んだ。と、その瞬間ニコニコスマイルが苦しみ出した。
「…ッ!朱莉の能力か…ちょっとは進歩したじゃないの!」
だがその瞬間ニコニコスマイルは先程までの表情が読めない笑顔に戻り、言った。
「でも残念だったね!私の編集能力に勝てる能力なんて無いの!作ってないし、作れないの!仮にもう1人とまた力を合わせてもね!アハハハハハハ!!」
狂ったような笑いに絶望の色を見せた朱莉。
そして私はもう話したくないと思いながらも、先程から気になっていたことをニコニコスマイルに聞いてみることにした。
「ねえ、ニコニコスマイル。これが最後の質問。もう1人って誰?秋さん?秋さんも私たちを苦しめようとしてるの??」
ニコニコスマイルはプッと吹き出した
「そんなわけないじゃん!あの子も私が作ったんだよ!もうひとりっていうのは私のもうひとつの感情!秋には私の半分ほどの力だってありゃしない!」
「もうひとつの感情?どういうこと?」
「私達は元々、一人の人間だった。が、本体が意図したのか、事故なのか分からないけど今現実でこの小説を書いている本体と、本体のコピーに別れ、本体は人形遊び、つまりあなたたちで遊んでいたことを忘れた!だからあなたたちは自由に動けるようになったの!それと同時にコピーは私、ポジティブな感情ともうひとり、ネガティブな感情に別れたんだー!ネガティブな方は君たちの苦しみを哀しみ、私は喜ぶ!本体はどうなのかなー?それはわかんない!」
「…じゃあ秋さんは私たちの味方?あなたの味方?」
「うーん、あの子は正義感が強いから君たちに味方するだろうね!」
「そう…」
1度信じた人に裏切られることほど悲しいことは無い。たとえ世界が私たちを苦しめに来ても信じられる仲間がいるなら、その苦しみも幾分かマシになると信じたい。でも、辛いものは辛い。だからせめて私は仲間を信じ、私達の状況を哀しんでくれるネガティブな方のニコニコスマイルを探そう。そう思った。朱莉も心なしかさっき叫んだ時よりも顔色がいい気がする。私が考えていることを察したのかニコニコスマイルは言った。
「私ねー、希望を持つ人は嫌いじゃないよ!嫌いなんてネガティブな感情、私には無いもの!まー、とりあえずがんばれー!」気がついたら私は探偵社に戻っていた。目の前には秋さんが座っている。雰囲気と表情で分かる。この人はニコニコスマイルじゃない。近くには青井さんや白銀さん、こないだはいなかった神崎さんの姿も見える。
秋さんは小声で話し始めた。
「今日は君たちが初めてここに来た日、新月じゃないから私がいる。私は君たちの味方。ポジティブニコニコスマイルはどうも好かないんだ。こっちでも調べるけど、ネガティブニコニコスマイルの情報が手に入ったら教えて欲しい。困ったことがあっても来ていいよ。その時は新月を避けて。」
「…ありがとうございます。」
「あ、前から思ってたんだけど敬語使わなくていいよ!多分同い年だし。…改めて自己紹介しよっか。私は金崎秋。高校1年生。ちなみに、ニコニコスマイルと一体化する前の名前は
「私は博井咲良。よろしくね。」
「私は岡崎朱莉!よろしく〜!!」
心強い味方ができた。私たちはそう思って探偵社を後にした。
👻👻👻
【心の中の世界】
風香はニコニコスマイルに声をかける
「ニコニコスマイル、何もあそこまで言う必要はなかったんじゃない?」
ニコニコスマイルは先程とは打って変わって冷静な口調で話す。
「そんなことは無いよ。あの子達の能力を使えば私とあの子が一体化するために必要なもう1人を見つけられると思った。でももう1人を探す強い理由が必要だ。私を悪、もう1人を善として、助けを求めるという理由を作ったんだ。いくら私がスーパーポジティブだとしても、あの子たちの不幸を願うほど落ちぶれてはいないさ。その証拠に、あの子たちが君のことを信じていたから君も善とした。」
風香はその発言に少し驚いた表情をしたが、また落ち着いた表情をして言った。
「ニコニコスマイルも一応考えてるんだね。」
「そうだよ。まあ、とにかく今はもう1人を探すのに専念しなくちゃ。じゃ、新月まで頑張ってね〜!」
ニコニコスマイルがそう言うと風香はまた秋となった。
「さて、私も情報を集めようかな…いや、その前に学校の宿題か…」
秋はそう呟いた。
霊感少女の日常 ニコニコスマイル @Nikonikosmile
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