『空気を読む』世代によるフラタニティ――残酷な友愛の物語

 楽しく拝読させて頂いております。


 この作品は『異世界モノ』でもなく『サバイバルモノ』でもなく、ごく普通な高校生――特段何かしらの訓練や教育を受けていない、一般人が切迫した状況下で『周囲の空気』のみを畏怖として生存していく物語です。
 そしてこの世界は、未来の日本で未曾有の『有事』あるいは『災害』が起きた場合、もしかしたら起きうるかもしれない状況をシミュレーションした物語かも知れません。

 LINEで繋がり、その横並びを大切にしながらも、その中で『バズる』中心にいたいと思う自分の存在を認めてほしいと願う欲望を誰もが抱きながらも、実生活に存在する中心的人物に依存する世界。その中で『空気』を読んで自分の居場所を探す。

 かつて週刊少年マガジンで連載された『エデンの檻』という漫画がありました。あの世界にも友達同士の『空気』の読み合いのような描写はありましたが、誰もが『サバイバル』要素の強い生き抜くための作品でした。

 クラスのリーダーである浜田君はとにかく自己保全と権力の確立のためだけで、危機感から『サバイバル』で生き抜こうとする判断が欠如しています。そして周囲のクラスメイトも『空気』を読んで自己の思考を完全に停止しています。

 土井隆義先生の『ともだち地獄 空気を読む世代のサバイバル』という本がありますが『Z世代』――今、このグループでうまくいかないと、自分はもう終わりだ」と思ってしまい、現在の人間関係だけを絶対視してしまい、他の人間関係のあり方と比較して相対化することができない、とあります。


 この作品は『サバイバル』の要素を前面に出しているわけでもなく、主人公は多少『サバイバル』の素養があるものの決してチートではありません。

 『空気を読む』世代によるフラタニティ――残酷な友愛の物語をお楽しみくださいませ。