メリー・オア・ノット!!!? ガテン系メイドは占いかぶれなボクっ子ご主人様の専属サンタをしたくないッッ ※アドベントカレンダーなのにクリスマスは消滅したようです
Last Tale (Dec. ???) メリー・オア・ノット
Last Tale (Dec. ???) メリー・オア・ノット
ヒタキはソファの上で目を覚ました。
(……!? ッけね! 寝ちまった!)
ヒタキの体内時計は出勤時間を告げていた。昨晩眠気にあらがっていたことだけを覚えている。
小さなシャンデリアのキラキラした明かりを目にした途端、毛布をはがして跳ね起きていた。眼鏡を探してかけたままだったことに気づくと同時に、食べ散らかしたピザとケーキとゲームのコントローラーとが並ぶローテーブルを目の前に見る。
見まわせば、自分の住むワンルームマンションではなく
(あー……そうだ。パーティしたんだっけ?)
昨日は帰らず夜どおしこの部屋で遊んでいたことを思いだしたところで「あぢぢっ」と変な姿勢で寝ていたせいか凝り固まってしまったらしい肩にようやく痛みが走る。揉みながらヒタキは自分の頭にもヘッドドレスの代わりに三角帽子が乗っていることに気がつき、服も白黒エプロンドレスのままだったと思い返したところで膝の上に頭を乗せたそまりが同じソファで毛布にくるまって寝ている姿を見つけてギョッとした。
心臓が胸を叩いてくる。ヒタキは空気を飲むようにしながらも、そまりを起こさないようそっと毛布をかけなおした。
(――いや、なに驚いてんだオレ……そまりとは、ずっとゲームしてたんじゃねぇか。イヴだったから…………イヴ?)
首をかしげかけたそのとき、ヒタキは目を
すぐさまそまりを動かせないのを悟って二重にうろたえながらも、なにか示すものがないかと辺りを見まわす。最初に思いついた自分のスマホはなぜか手の届く範囲に見当たらなかった。代わりにローテーブルの下にリモコンが落ちているのには気がついた。
(そうだっ、テレビ!)
ゲームに使っていた大画面の壁掛けテレビの電源を入れる。特にチャンネルを変えなくても民法のニュース番組が流れていた。時刻表示は七時五分。天気予報だ。
『十二月二十六日日曜日の全国の天気をお伝えします。西から天気は下り坂となりそうで――』
「………………」
ヒタキはテレビを消した。リモコンを握ったまま、ソファにふたたび沈みこんで深く息を吐く。
「……ま、そう簡単にはいかねぇか」
そばで寝ているそまりに目をやる。ヒタキの脚を枕にして、サンタを待つ子供のようにすやすやと心地よさそうに眠っている。
ヒタキはその髪にさわって、それからなんとなく白い頬を指で押す。骨張りがちに細いくせに、そこだけはぷにぷにとマシュマロのようなやわらかさだ。
何度も押しているうち、物憂げに下がっていたヒタキの口の端は徐々に持ちあがっていった。ついたため息は、そんなヒタキ自身へのもの。
「はー……まぁ、気長にやっかね。また来年、ガンバりゃいいだけだしな」
どれだけさわってもそまりは目覚めない。指先が頬から小さなアゴに向かってすべり、寝息を立てる薄い唇をなぞる。
頬よりももっとやわらかく、湿り気を帯びた感触に自然と呼吸が浅くなって、いつの間にか、垂れた前髪があたりそうなほど近くで安らかな寝顔をのぞき込んでいたヒタキは、ほのかに甘く香る白いうなじにそっと鼻先と唇を寄せた。
「それまでは、どこにも行かねーでおいてやるよ」
「おはようございます」
「※★୨☟¥%☠ッッ!?」
ヒタキは声にならない悲鳴とともに背すじを伸ばした。
たったいまひらいたドアから、赤い衣装に身を包んだ
紅菜はしかし入室するや否や、神妙な顔で立ち止まった。それはまるで電子レンジに放り込んだ卵が背後で爆発するのを聞いたような形相のヒタキとばったり目が合ったせいだが、ヒタキのその顔は見る間に赤く色づいたあげく、うろたえ切って口をひらいた。
「いッ、違反してねぇ!」
「なににですか?」
平然としていた紅菜の目がここで不審げに細まる。ヒタキはさらに真っ赤になって、「ななな、な、なっなにってッ……きょ、今日っ、日曜だし、遅刻じゃないっす!」
「そうですね」
紅菜がいつもの顔に戻る。ヒタキは魂まで吐き出しそうな勢いで深く息をついた。
「つ、つーか、そっちこそ、なんすかそのカッコ……」
「なにって、サンタですが」
「は……?」
今度はヒタキが固まる番だった。しかし、紅菜はやはり平然としたまま「クリスマスですよ」と。
「用意しておいてよかったです。もう何年ぶりでしょうね」
「え、や……だって、ニュース……」
「ニュース?」
紅菜が首をかしげたところで、はたとヒタキは気がついた。
扉のそばにある古めかしい掛け時計は、六時五十五分を指している。
もう一度テレビを見る。いまは週間天気予報が流れている。二十六日から元旦までの天気。日曜日から土曜日まで。
昨日は土曜日だった。だから夜遅くまで遊んでいた。
ヒタキは震え気味の手でリモコンのボタンを押す。画面の端に『一時停止』が表示され、ニュースキャスターがちょうど目を閉じたところで固まる。
さらにボタンを押すと、今度はキャスターが高速で天気予報を終えて次のコーナーがまた高速で始まった。『巻き戻し』を押せば、画面に出てきたものが逆の動きをして天気予報が帰ってくる。
膝の上に振動を感じて、ヒタキはテレビを消した。
コロコロと押し殺した笑い声が下から聞こえてくる。
口の端をあげたままひきつっていたヒタキのこめかみに、たちまち大きな青すじが浮きあがった。
「ン、ンフフフフ……ご主人様よぉ、いつから起きてらっしゃいましたのぉぉぉ?」
「うーん、ヒタキがリモコン持ったあたりからかなぁ?」
わざとらしく目もとをこすりながら、あいてるんだかいないんだかわかりづらいくせに笑っているのだけはなぜか伝わるその目でヒタキを見あげる。ヒタキが喉までひきつらせて「ほ、ほぉぉう?」と相づちを打つと、そまりはさらに毛布の中で握っていたスマホを突き出してみせた。
ヒタキのスマホだ。
「ヒタキ占い。テレビが録画って気づくかどうか」
「なっ!? おまえ、まだそんなっ!」
ヒタキの顔色が変わる。わかりやすい怒りからどこか不安げで複雑な表情へ。
しかし、そまりはおだやかに笑んだまま、首を横に振った。
「もう『いい子・わるい子占い』じゃないよ。これはね……」
ヒタキの目を見る。カラコンをしていないトビ色の瞳に、シャンデリアの明かりを反射した青い光が写りこむ。
そまりは白く小さな歯を見せ、とても子供っぽく、けれどどこか誇らしげな、まぶしくて華やかな笑顔とともに、
「ただのイタズラぁ~!」
と、今年最後の贈りものを教えた。
受け取ったメイドは、しばらく無言で主人の顔を見おろしていた。感心しているような、放心しているような、あいまいで乾いた表情。やがてガックリとうなだれたが、口の端は不気味にグイっと持ちあがる。
「へ、へぇ……じゃあ、もうどっちでもいいってわけだ……?」
「そうだね。いい子もわるい子もないんだ」
「……ッッたりめぇだこのガキャぁ!! どっちでも〝わるい子〟に決まってんだろォがァァァァァァ!!」
ふたたびほがらかに答えたそまりにヒタキは両手で襲いかかる。しかしそまりの頭はするりと毛布の中に引っ込み、猫のようなしなやかさで反対側へ抜けて駆けだしていった。「待てやコラァ!」とヒタキもひるまず毛布を払いのけ、
「逃げてんじゃねェぞそまりぃ! クリスマスは家族と過ごすんだろうがよッ!」
「ヒタキだけクリスマス来年なんでしょう!?」
「ンだとォ!? ジョートーじゃねぇかッ。幸せムダ使いしまくってもっかいツブしてやんよぉ! 365日くすぐりの刑だ!」
「わーんっ、セクハラー! コンプラだー!」
「黙れこのエロガキぃぃッ!」
スルスルと埴輪たちの間を器用に逃げまわるそまりと、もはやためらわず踏み越え乗り越え時に
暴れ放題のふたりで騒然となった客間の真ん中で、ふたりがけのソファに取り残された毛布の中からもぞもぞと小さなものが
「んぁ~っ、うーるさいでありスますぅぅぅ!」
「おや、妖精さん」ソファのそばに歩み寄っていた紅菜がかすかに驚いた顔をする。
「クリスマスですが、ここにいてよろしいのですか?」
「うむ~、ニッセたちはクリスマスだけおやすみでありスますぅ~。ウン年ぶりの公休なのでありスます~」
「なるほど」
紅菜が頷くと、妖精はふたたびソファに沈みこむや「ふかー」とだらしなく口をあけて寝息をたてはじめた。そのそばへみそカツが飛び乗り、丸まって共に目を閉じる。紅菜は黙々とテーブルの上を片づけ始めた。みんなで朝食を囲んだら、あとはプレゼントをあける時間だ。
では、私もニッセにならってひと眠りしようと思う。久しぶりの仕事は楽しかったよ。
Merry......or Not?
Don't worry! Merry Christmas again and again!!!
メリー・オア・ノット!!!? ガテン系メイドは占いかぶれなボクっ子ご主人様の専属サンタをしたくないッッ ※アドベントカレンダーなのにクリスマスは消滅したようです ヨドミバチ @Yodom_8
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