第5話 彼は銃によって死ぬ
取材してわかったことがある。ロジャー・アントンに下された占いは全て的中した、と言えることだ。結果的に彼は自殺した。動機がなんであれ、銃を顎に押し当てて自殺したのだ。
私は彼が自殺したとされる執務室の扉を押し開けた。取材を始めるさい、全ての許可は取ってあった。いましめられたのは「アンナ・アントンに事件の日のことを聞くな」ということだけ。
これを小説に仕立て上げるとして、どんな形になるだろう。
例えば──猟奇的な趣味を持つ男が、醜い女を見初める。インパクトがあって、見世物的で、何より醜悪で、人の目を引くだろう。
しかしなぜ。なぜロジャー・アントンは自殺したんだろうか。
順風満帆な人生。好みの女との新婚生活。きっと順調だった家業……何一つ不自由ないはずの彼が自殺する要因が思い当たらない。なぜ、なぜ彼は自殺してしまったんだ?
「……先生」
女の声がした。振り返ると、真っ白な仮面を被った女主人が、こちらに銃口を向けていた。
「ごめんなさいね」
破裂音が私の耳を焼く。右の腹に穴が空いていた。私は叫びかけて、彼女の視線に黙らされた。静かな哀しみと、怒りに燃える瞳だった。
「貴方は私の本当の顔を見たわ」
肩の骨に響くような衝撃があった。
「見ないでと。そう言ったのに。見たわ」
3発目が眉間を撃ち抜いた。そうして私は死んだ。
死体転がる部屋で、女は1人呟く。
「ロジャー様が、あの日、銃にたくさん弾を詰めていてくれれば、私も今頃」
男を殺したその銃を、女は顎に当てる。自分のために注文されたというその銃を、夫がそうしたように。脳天を貫くようにきつく押し当てる。
引き金を引くと──かちゃりと音がして、もう残弾がないことを女に教える。
「やっぱり殺してくれないのね。ロジャー様……どうして」
女のセリフは使用人たちの足音にかき消される。
「ロジャー様、どうして私を
安全装置は働かない 紫陽_凛 @syw_rin
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