第7話
時刻は、すでに5時に近かった。
透明なアクリル板のアーチ天井から見上げる夜空の
警部は、
かたや、サビついたシャッターは、一面にくすんだ灰色で
被害者が最期の力をふりしぼって死に物狂いで書き遺した、人の名前。被害者が謎の
ふいに、警部は、その名前の女性を振り返った。
「アナタと被害者が
女性は、元カレの男とニラミあったまま、トゲを隠せぬ声で答えた。
「"
「やっぱり!」
警部は
「その塗料は、決められた時間になるまでは、無色透明で目に見えないってことですね?」
「はい。"塗料A"に"薄め液B"を混ぜ合わせることで、タイマー機能が働きだすシカケです。A液とB液、いずれも単体では無色透明です」
「けど、目に見えない透明な絵の具じゃ、まともに絵を描くことだって、できないじゃないんすか?」
と、若い刑事が口をはさむ。
女性は、白い手を
「
まさに、その瞬間。遺体の周囲の路面が、色とりどりのパステルカラーに染まったのだ。絵の具を一気にブチまけたかのように。
事実、それは、遺体の周囲に転がった空き缶の中から散乱していた塗料に、
"タイマー機能"を持った塗料が、一定の時間を
「参考人として呼ばれるまで、この商店街を訪れたことは一度もないと言ってましたよね、アナタ?」
若い刑事が、青年の背中に向かって
青年は、規制テープの向こうに好奇心の目を奪われながら、
「ええ。それが何か?」
「だったら、なんで、アンタのシャツに緑色の塗料がくっついてんです?」
「は? そんなバカな……」
青年は、前後左右に首をひねって自分の上体をアタフタ見わたすや、じきにガックリと肩を落とした。
白っぽいシャツの左の腰のあたりに、直径20センチほどの濃い緑色の"×"印が、クッキリと浮かびあがっていたのだ。
抵抗する間もなく突然の凶行に襲われつつも、被害者は、右手に持っていた絵筆を必死にふるい、加害者の衣服に目に見えないダイイングメッセージを書き遺していたのだった。
「あああああああああ……っ」
一方の女性は、店のシャッターを見ているうちに、こらえきれない
古ぼけた灰色のシャッターは一転し、
ただ1か所、
オワリ
シャッター通りのバンクシー こぼねサワァ @kobone_sonar
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