たどころせんぱい

@konasu

第1話

「せーんぱい、たどころセンパイっ!」


元気な声がする。背中の方から聞こえてくるようだ。


「ん?ああ、赤ノ瀬か」


振り返るとそこには、さらさらロングの可愛い後輩が立っていた。


「何ぼーっとしてるんですか?」


心配してるのか、社交辞令なのか。


「そう見えた?」


「そうですよ。ま、元気出してくださいって」


「え、元気なく見えた?」


「まあそうかな?」


「そうか。。」


この変な一年生、赤ノ瀬まかりは、なかなか厄介な後輩だ。


つかみどころもなく、捉えどころもない。


正直俺にしてみれば「謎」だらけ、といったところが大きい。


ここの関係性と言えば、まあ単に部活というか同好会というか、課外活動の仲間という感じだけれど。


まあなんかずっと振り回されている。



「ちゃんと睡眠とってますかー?」


「はいはい。」


「朝食べました?」


「はい。」


「ならよし。」


「お前はオカンか。」


でもな。なんか嫌いじゃないんだよね。



こうしてフランクに絡んでくるけど、ちゃんと距離感測ってるし、生意気だけど結構気を遣ってくるし。


あー、なんかいつも助けられてるな、俺。


急にお礼が言いたくなってきた。かもしれん。



「赤ノ瀬」


「はい?」


「いつもありがとな。」


つい口が滑ってしまった。


「え何ですかいきなり」


「いや、言える時に言っとこうと思って」


「はあ。きも」


グサッ。(心にナイフが突き刺さる音)


「う!な、なんだよきもって」


「や、唐突だったんで。脈絡ないし」


そうよね。そうですよね。


「そうだな、突然すまん…。」


「(でもそんなところが、ね…)」


たまに意味不明にニコニコし出す後輩。

あーきっとバカにしてるんだろうなぁ。


「なんだって?」


「なんでもー?それよりセンパイ、そろそろ進路決まったんですか?」


わー。わー。やなこと聞いてくるわコイツ。


「あー。あー。。うん。まあ。」


「え。その反応は、ん?」


(苦笑)


「HAHAHA」


「あー(察し)」


解説するとまあ大学3年の冬だからね。インターンとか、就活とか色々あるんですよ。


「まあ、今2択で迷ってて」


「サラリーマンか教員か、ってヤツ?まだ迷ってるんですか」


うーんお見通しか。恥ずかしい。


「うっせえわ」


「口悪いですよーw」


「うぅ、ごめんなさい」


なんかいつもからかわれてる気がする。

コイツつかみどころがないなー。

もしかして精神年齢俺より上なんじゃないかな。




そんなこと考えながら。


でもこのやり取りが好きだったりする。



そんな、冬の昼下がりのことであった。



---




私は赤ノ瀬まかり。都内の早応大学に通う大学一年生だ。


唐突だが、私は田所という名の男のセンパイが好きだ。


きっかけは割と色々ある。でも最初は「何だこの人」とずっと思ってた。


見た目は割と普通の大学生だけど、いきなり話しかけてきて、フランクすぎるというかチャラい大学生だ。


そんなふうに見ていた。


まあずっと見てると気づくことはある。


この人がチャラく見えるのは、この人なりに理由があるのかな、と。




私が思うに、この人は「他人に幸せになってもらいたい」と常に考えている人だ。



だから好きになったのだ。




でも最近気づいてしまったことがある。





先輩は好きな人がいる。





そしてそれは私ではない。



その人は素敵な人で、先輩もゾッコンで。



あーきも。言っててキモいわ。



でもまあなんというか、私はその人と先輩を応援したくって。


わからないや。




でも私は今まで通り後輩を演じるだけ。




だから。




「せーんぱい、たどころセンパイっ!」







曇天の空、12月の昼下がり。




触れる空気は痛いほど冷たかった。

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