修行開始と少女の秘密 04

04


修行一日目。

次の日、何とか時間通りに外へ出ると、そこにはもうノアさんが仁王立ちして待っていました。朝強いのでしょうか? 意外ですね。冒険者は夜が更けるまで飲み歩き、二日酔いの頭を揺らしながら仕事へ向かうようなイメージがありました。

「よく起きれたな嬢ちゃん。まあ、起きてこなかったらベッドからたたき出すつもりだったが」

「ええ、頑張っておきました。ふあぁ」

「眠そうなところ悪いけど、明日以降もこの時間に起きてもらうから早く慣れろよ」

「頑張りましゅ……」

「それじゃあ街の外に行くか。おら、ボケっとしてんな。迷子になるぞ」

「外で何をするんでしゅか?」

「街の回りをランニング。とりあえず今日は様子見のために一周だけでいいぞ」

「……え?」

街の回りって。いやいや、何キロあると思ってるんですか。そんなちょっとお遣いを頼むようなノリでいう事じゃないです。

私がそんな抗議する前にノアさんは走り始めてしまいました。ええ、速すぎませんか……? もう見えなくなってしまったんですけど?

「仕方ない、私も走らないと」

『私を持っているのだから、慣れるまではゆっくりと走る方がいい』

「前かがみにならないと剣先を擦ってしまうからちょっとした動きだけでも一苦労です。フィットするサイズのベルトを、っふ、デクスが用意してくれたから、良かったですけど」

朝、デクスをどうあって持ち運ぼうかと困っているとデクスが光り輝きベルトが出てきました。ありえないことではありますけど、もう今更です。やけくそです。

『私をあまり揺らさないように走らねば体力がすぐ消耗してしまうぞ』

「ベルトが、出せたのですから、はっ、もっと、強く固定することは、出来ない、のっ、です、か?」

『私は特殊な武器ではあるが、主の願いを全て叶えられるほど万能というわけでもない。私を扱う技術も、主が自らで納めるしかないのだ』

「わたし、が、はっはっ、こん、な、っは、大きな、剣を……」

『無理して話さなくていい。私と主にはパスが繋がっているから、話さずとも考えるだけで伝わるぞ』

『それを早く言ってください! 苦しいんですから!』

なんて便利な機能でしょう。これで人目を気にせずゼクスと話すことが出来ます。

わあーいわあーい。やったぁ……。


「はっはっはっはっはっは、コヒュー、コヒュー」

『呼吸音がおかしくなったが大丈夫か』

「だ、め。コヒュー、コヒュー」

『一度歩いたほうが良いぞ』

『そう、します』


そのように限界まで走って、限界が来たら歩いてを繰り返していると、いつの間にか太陽が頭上に上っていました。

そして朝五時から走り始め、私ミレーナはようやくスタート地点に戻ってきました。何故か頭から「さくらーふぶーきのー」という音楽が聞こえてきます。

「コヒュー、コヒュー……」

「一周で、しかも休憩を自由に入れさせてこのざまか。こりゃ大変だな」

ちなみにノアさんは息も荒げずに5周していました。絶対人間じゃないです。

「普通、こんな、に、はぁはぁ、長く走らない、です」

「冒険者ならこれくらい出来なければ死んでしまうからな」

「冒険者、頭、おかし、い……」

ずりずりと引きずられたまま食事処に行きました。淑女を雑巾のようにずりずりと。

なんて屈辱でしょうか!


私が一番安い定食を注文したのを見て、ノアさんは少し驚いていました。ふふん。

そもそも、私はそこまで多く食べられません。それに濃い味付けの食べ物も苦手です。なのでそこまで苦痛というわけでもありません。

強いて言うならば、やはり今まで食べていたものに比べれば質素な味わいであることでしょうか。やはり今まで食べていたものと比較してしまうと、どうしても違いはあります。

パンの品質やスープの味付けなど些事でしかありません。

「ずいぶんとうまそうに食うな」

「おいしいですからね」

「いいところのご令嬢だったんだろ? こんな場末の定食屋の、一番安い飯がそこまでお気に召すとは思わなかったな」

「私は今まで、こんな疲れるまで動いて、疲れたことをしたことがなかったので」

頑張ってヘロヘロになっていた私にとって、どんな食事でもごちそうです。

頑張った後のご飯がこんなにおいしいものだと、私は初めて知りました。

「なあ嬢ちゃん、あんたはどうしてそんなに気丈なんだ?」

「気丈に見えますか?」

「ああ。箱入りのご令嬢がいきなり地位と名誉を捨てられて、見ず知らずの男にいきなり冒険者になれと言われて。普通だったら意味が分からなくて部屋にこもって泣きわめくか、もっと楽な道に逃げ出すものだ」

「そういうものなのでしょうか」

「ああ。現状に不安を感じずに生まれ育った人間は、理不尽な目に遭うと、どうして私が~と意味のない現実逃避に浸ることが多い。それまでの人生で理不尽にあらがう方法を学んでこなかったからだ。だが嬢ちゃんは自分で考えて動いているように見える」

「それは……」

恐らく、デクスのおかげです。私一人だけだったらノアさんが言っていたようにどうして、なんでと無意味な現実逃避に浸っていたことでしょう。

デクスは私に現実的にどのように考えて行動するべきかの指針を考えてくれました。

「それはきっと、この剣のおかげです」

「剣が? 何言ってるんだ」

「ふふ、分からなくて大丈夫です。これは私の中だけの秘密なんです」

「よくわからないが……まあ、わがままばっかりの生意気令嬢から、少しは評価を改めてやる。騎士になりたいなんて口ばかりかと思ったが、そういうわけでもなさそうだしな」


……!


「あ、ありがとうございます!」


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少女は騎士を志す。 ちなまるり @sasasaasasaa5114

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