終章
フリ素オレ、できることをやるだけのようです
※
「この国で『ザンダン』人気の理由は、そうだね、当然理由がある訳だけれど。
「どこの国にも同じような物語があって――たった一つの得物を持って、旅をしている少年の話。衣もなく食もなく住もなく、放浪しているの。いろいろな村を訪れ、そこの人たちを助け、お礼として、旅に足りないものを分けてもらう。
「彼の一番の美点は、やはり優しさだね。どんな相手にも穏やかに接し、決して声を荒らげない。されど正義に
「相手を尊重する態度。圧倒的な強さ。決して気取らない姿勢。彼は、あらゆる男子の目標であり、あらゆる女子の憧憬なの。
「『ザンダン』は、その少年の派生の一つだろうね。銃の登場が、語り継がれてきた物語にまで影響を与えている興味深い事例であり、伝統は形を変えて残り続けるという好例。最初に見た時は驚いたけれど、なかなかどうして、いい意匠だよね。
「なぜこの銃のデザインの少年だけ、『ザンダン』という名で商品化したのかは分からないけれど、根本的な人気の理由はそういうこと──ザンダン、分かった?」
「──ああ、悪い、ぼーっとしてた。何だっけ」
「もう、ザンダンが聞きたいって言ったのでしょう、『ザンダン』の人気の理由を」
※
「――で、今の話を信じろと?」
オレは
フラットな関係――を意識した訳ではないが、たくさん心配してもらっていながら、大切な情報をひた隠しにするのは、どうも罪悪感が募る。
「まあオレが言いたいのは、あんまり心配しなくてもいいってことだから――」
オレは下手に回る。言い訳がしたいのではない、ただオレの把握している事実を、伝えただけだ。正直信じてもらえるとは思わないし、オレが
オレは優稀の様子を観察する。何か考えるように腕を組んでいた――サマには、なっていた。
「つまり、健康に何ら問題はないってことでいいの?」
彼女は、そう言った。
「うん――それは、多分そうなんだと」
オレは返す。
「だったら、よかったじゃない」
「え?」
「もう機械に繋がれてなくてもいい訳?」
「それは――分かんないけど」
彼女は立ち上がる。
「うん、よかったよかった、ヤバい病気じゃなくて。医者には言いにくいかも知れないけど。というか信じてもらえないかも、知れないけど」
「そうだな、それは考えものだ――もう帰るの?」
「ん。明日も学校だし――しゅうちゃんも、元気なら学校来なよ。
「
「うーん、
「そっか」オレは意識的に笑う。「行くよ。明日は、無理かもだから――明後日には」
「待ってる」優はそれだけ言って、部屋を出ていった。
久々の学校。また友人たちにぎゃあぎゃあ言われるだろう――そういえばラインを開いていない。まあいいか、そんなものは後回しで。目下こちらの世界でやるべきなのは、真深が想いを寄せているという人の調査。結局まだ教えてもらっていないからな――本人に尋ねるというのは、アリなのだろうか。やはり不躾か――陰ながら応援、みたいな意味で優は言っているのだろうし。
いや、と思い立って、オレはラインを開く。過去を思い出した後、母親に訊いたのだ、当時の写真でも動画でも、何か残っていないかと。メッセージが来ていたのは、父親からだった。オレは送られてきた画像を見て――期せずして、笑ってしまう。
子供のオレは、水鉄砲を構えていて。
どうにも自信ありげな表情を湛えて。
「言ってくれるぜ、全く」
子供は怖いものなしだ。だから何にだって立ち向かえるし、何だって叶えられる。たとえ世界平和であっても。しかし成長するにつれ、自分がどうしたってできないことがあると気づき、可能性を自ら狭めていく。
そんなオレに、過去のオレがかける言葉は乱暴だ。乱暴だが――今のオレにはそんな喝が必要なのも理解している。
簡単なことと、簡単でないこと。とにかく一度やってみて、判断すればいい。背中は、過去のオレが押してくれる。責任は、未来のオレが負ってくれる。今のオレは、今のオレと関わりある人たちのために行動する。あの長男もそんなことを言っていた。
ただし彼とオレは違う。次男とも、長女とも、次女とも。彼らは、彼らにできることを。オレは――オレにできることを。オレにしかできないことをやるのだ。オレにしかできないことなら、たとえ簡単でなくても、それはやるしかない。
フリ素@存在証明 ~フリ素オレ、異世界で人気大爆発しているようです~ 烏合衆国 @akanumam
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