こんなソシャゲは許されない
kayako
こんなソシャゲは滅してくれ
私はソシャゲ大好きなOL、
今日も新しいソシャゲを探しては、お気に入りを見つけて暇な時にスマホで遊んでいる。
ガチャを引き、可愛いキャラや強力なアイテムをゲットし、イベントやストーリーを進める。
そんなソシャゲはせちがらい現代社会における、数少ない癒しだ。
ガチャなどの課金要素については色々言われているけど、お金を過剰に使いこみさえしなければ大丈夫。
――そう、思っていた。
そんなある日。
今日もまた、新しいソシャゲがリリースされた。タイトルは『イブコニス』。
プレイヤーが勇者となり仲間やアイテムを集め、広大な世界『イブコニス』を冒険するゲーム。よくあるRPGだ。
仲間のキャラも良く、メインとなるストーリーも面白く、私はすぐに夢中になった。
そしてゲームを始めて間もなく、最初のイベントが開催された。
そのイベントはやっぱり、よくある期間限定イベント。
仲間となるキャラのうち、イケメンだけどちょっと態度が尊大な剣士と、巨乳だけどちょっと引っ込み思案な魔術師の女の子。その二人を軸に展開されるイベントだった。
二人とも脇役キャラで、私も特段興味もないキャラではあったけど、何と言っても初めてのイベント。気合を入れて挑んでみたが――
イベント期間は2週間。
1日目から3日目にかけて、ストーリーが順次公開されていくといった仕様。
1日目は剣士と魔術師の出会い。
2日目は、順調に旅を続けていく二人。
そして3日目は、些細なことで諍いを起こす二人が書かれていた。
二人の喧嘩の発端は、魔術師の火術が誤って剣士の足元を焦がしてしまったというもの。
大事には至らなかったものの、剣士は激昂。気の弱い魔術師は泣き出した。
仲間たちが必死で仲裁に入るが、そこへ魔物が現れて――? という展開。
一体戦いの行方は、二人の仲はどうなるのか。
私はうきうきで4日目のストーリーを待っていたものの――
迎えた4日目。
私はとんでもない現実に気づいた。
4日目のストーリーは、3日目までのように通常通り公開されるわけではなかった。
ゲーム画面のどこを見ても、ストーリーの続きは見当たらない。
そのかわり出されていた告知が、以下のようなものだった。
『イベントランキングに参加しよう!
ポイントをたくさん集めて上位100位以内に入れば、ストーリーの続きを読めるぞ!!』
一瞬目を疑ったが、文言に間違いはなかった。
つまりあの二人がどうなったかは、期間限定イベントを遮二無二走りまくり――
要するに敵を何度も何度も倒しまくって上位に入らなければ、絶対に分からない。
そして現在、このゲームをプレイしているユーザーは恐らく、10万人を超える。
10万人のうち100位以内に入らない限り、ストーリーの続きが永遠に読めないのだ!
私はスマホを割らんばかりに握りしめながら歯噛みした。
剣士も魔術師も、別にお気に入りキャラでも何でもない。私にとっては脇役中の脇役にすぎなかった。しかし――
いざ読めないと分かれば、逆に気になってしまうものである。
バカバカしい。スマホを投げ、イベントを丸ごと無視して寝てしまおうかと思った
――が。
もしかしたら超展開で、二人は魔物にやられてしまったかも知れない。いや、普通に仲直りしたとしてもどういう過程でそうなるのかは気になる。魔術師が少し成長して強くなるのか、もしくは剣士が彼女を少しだけ認めるのか。
気になる。気になる。
あぁあ、気になりすぎて眠れない!!
何故、途中までのストーリーだけは普通に公開したのだ。最初からストーリーが読めないなら、あの二人の行く末がここまで気になることもなかったのに!!
あまりにも眠れなくて、私はもう一度ゲーム画面を開いてみた。
現在の私の順位は5万位以下。正直、絶望的なランクだ。
しかし告知をよく読むと――
『限定ガチャを引いてボーナスアイテムを引くと、ポイントが多くもらえるよ!』
という文言が。
これまで私はソシャゲへの課金は月に1万と決め、そのラインはきっちり守りながら楽しんでいた。そして今月の課金は既に1万に達している……
でも。でも……
ここで何もしなかったら、あの二人の結末が永遠に分からない!
私は課金した。
最初は1万円だけ……と思ってのことだった。
しかしその1万では、ガチャでボーナスアイテムは引けなかった。
ならば2万。3万。それでも駄目。なら、一気に出して5万……
すると、遂に来た。
最高級ランクの有償限定アイテム、『双月の神槍』が!
ただでさえチート級に強力とSNSでも話題だった上、ボーナスポイントも大量に入ってくる神アイテム。人によっては10万出しても入手出来なかったらしい。
そんな神アイテムが、たかだか5万で手に入った。
これはもう……ランキング上位を目指さないわけにはいかない!!
私は時間を惜しんでひたすらソシャゲに没頭した。
ストーリーの結末を見る為だけに、5万以上をつぎ込み。
通勤時間や休憩時間は勿論、寝る間さえも惜しんでひたすらイベントを周回し続けた。
楽しさなんて何もない。ただただ敵を倒しポイントを得るだけの時間を、ひたすら繰り返した。
イベント終了直前ともなると、100位付近で非常に熾烈な争いが展開された。
そりゃそうだ。それ以下に落ちれば、あの二人の結末は永遠に分からないのだから。
終了直前、私は夜を徹してイベントの周回を続けた。その日も仕事だったが、強引に休んだ。
空が明るみ始めても、イベント終了1時間前になってもなお、100位以内に入っては落ちを繰り返す。
そして遂にイベントは終了。数時間の定期メンテナンスが終わると順位が確定する。
私は心臓をバクバクさせながら結果を確認した――
93位。
かなりギリギリながら、私はストーリーの結末を見る権利を手に入れた。
アクティブユーザー10万人の中で、選ばれし100人しか見られないストーリーを!!
そして待ちに待った物語の結末はというと――
剣士と魔術師は突然の敵の急襲の中、二人一緒に必殺技を編み出し、撃破する。
勿論その後二人は仲直り。よくある結末だった。
それでも私は満足だった。イベント中ずっと、気になって眠れなかったほどの結末がようやく分かったのだから。
しかし、その次の週。
前のイベントからほぼ間を置かずに開催された期間限定イベントは
――またしても、同様のランキングイベントだった。
今度は若い義賊と、国を追われた王女がひょんなことから旅をする話。
3日目までに公開されたストーリーは、キャラ以外はほぼ前回と同じと言っていいだろう。
立場の違いから喧嘩が始まり、そこへ敵が……という展開だ。
それでも――
やっぱり話の先が気になってしまい、私は再びお金と時間をつぎ込んだ。
今度は10万近くかけてボーナスアイテムをゲットし、会社も数日無断欠勤した。
結果、今度も何とか95位に入ることが出来た。
ストーリーの結末も前回とほぼ同じ。喧嘩していた二人が必殺技放って仲直りで終了。
それからも『イブコニス』では次々と、同じようなランキングイベントが開催された。
そのたびに私はガチャを回してボーナスアイテムを引き当て、イベント中ほぼ全ての時間を周回に費やし、選ばれし100人のうちの一人となってストーリーを最後まで堪能した。
もう、何十万をガチャにつぎこんだか分からない。
仕事は無断欠勤が続いた結果クビになった。クレジットカードもとっくに利用限度額を超え、遂に私は借金までこしらえていた。
そんな私の情報をどこかから仕入れたのか。
時々ツ〇ッターで、『あのお話の結末教えてくれませんか!? ランキング入り出来なくてメッチャ気になるんです、お願いします!』
というダイレクトメールも来たが、全て無視した。
これだけのお金と時間をつぎこんでようやく読めたストーリー、ろくな代償も払っていない他人にやすやすと知らせてたまるものか。
そして迎えた、次のランキングイベント。
時節柄、水着イベントだった。
海水浴にやってきた巨乳の女騎士と貧乳の女賢者がひょんなことから口喧嘩を始め、そこへ敵が……といった内容。
キャラクターは勿論、水着にも全く興味はない。だが水着イベントともなると、必然的にイベント参加人数は増える……激戦は必至だった。
それでも私はいつも通り、数十万を費やしてガチャでボーナスアイテムを引いた。
たった数十万で引けたのはラッキーだった。今回のガチャ、人によっては100万かけても出ないこともあるらしい。
そしていつも通り自宅にこもり、延々と周回を続ける。
最早家事もせず、部屋はゴミで溢れ、台所はカップ麺とカビの臭いでいっぱい。シャワーも浴びなくなって久しく、髪も下着もベトベト。
でも、ストーリーの結末を見るためなら仕方ない。
しかし今度という今度は、甘くなかった。
どれほどお金をつぎこんでボーナスアイテムを揃えても、寝食忘れてイベントを周回し続けても――
どうやっても、100位以内には入れない。
一番頑張って105位ぐらい。イベント初日からもう1週間、ろくに寝ても食べてもいない。トイレに行く時もスマホをずっと握りしめているのに。
このままでは、あの巨乳騎士と貧乳賢者がどうやって仲直りするのかが分からない。
多分例によって、必殺技を撃って敵をやっつけて終わり。そこまでは分かるけど、細かい過程がどうしても気になる。巨乳と貧乳がどうやって分かり合うのか――
知りたかった。物語の結末が。
例えどんなにくだらない内容であろうと、一度刺激されてしまった知的好奇心は、そう簡単に止められるものではない。
あぁ……上位に入らなければ最初から全てのストーリーが読めない仕様だったなら、ここまで結末に拘ることもなかっただろうに。
せめて、ガチャで当たりを引けば結末が分かる仕様であったなら。
もしくは、ランキング報酬がストーリー以外のものであったなら。他に限定キャラ選択券とか、限定アイテム選択券とか、いくらでもあるだろうに――
ひたすら無意味な周回を続ける私の中で、怨念と憎悪が渦巻いていく。
何故だ。一体誰だ、こんな仕様を考えた奴は。
よくあるソシャゲの、期間限定イベントの短編とはいえ、物語を一本書き上げるのは労力が必要だ。むしろ短編だからこそ難しいと言える。
なのにその物語を最後まで堪能できるのは、ランキング上位100名だけ。
どれだけお金を払っても、その100名以外は最後まで物語を読めない。
今の私みたいに数十万をつぎこんでも、それ以上につぎこめる奴が100人いたら終わりだ。
――それはあまりにも、理不尽じゃないのか。
ユーザーにとっては勿論、ストーリーの作者にとっても。
理不尽だ。理不尽だ。理不尽すぎる。
ゴミの臭気がこもる真っ暗な部屋の中、それでも私はひたすら周回を続けるしかなかった。
もしかしたら、チートツールを使って上位に居座るクズどもが一斉にアカウントを消されて、順位が大幅に繰り上がる奇跡があるかも知れない。
だから私は絶対に諦めない。
あの二人の結末を見るまでは、絶対に――
数日後、イベントは終わった。
メンテナンス終了後、順位を確認したが――
奇跡は起こらなかった。
私はランキング入りを果たせなかった。
あの巨乳騎士と貧乳賢者がどうやって仲直りしたのか、私には永遠に分からなくなってしまったのだ。
それ以降、私は必死でネットを漁った。
あれだけ時間とお金をかけ、ソシャゲ以外の全てのものを犠牲にしても、分からなかった結末。それを求めて。
他のユーザーにもツ〇ッターで聞いてみた。
『あのお話の結末教えてくれませんか!? ランキング入り出来なくてメッチャ気になるんです、お願いします!』と。
しかし反応はないか、もしくは体よくはぐらかされるだけ。
しまいにはこんな回答まで来た。
《こちらはそれなりの時間とお金をかけ、やっとストーリーを読めたのです。
そこまでの代償も払っていない貴方が、見ず知らずの他人にタダでその結末を求めるのは、非常識ではありませんか?》
だ、だだ、代償を払っていないだと。
会社をクビになってカード破産して、ガスも水道も止められて家は追い出される寸前。
全身から悪臭を放ち、フケを食糧にしているも同然の私が、代償を払っていないと!?
怒りのあまり、私はそのメッセージをツ〇ッターに晒した。
当然ツ〇ッターは炎上した。ただし相手ではなく、私のツ〇ッターが、だ。
理由は
「ろくに金も出さない癖に非常識すぎる」「こういうソシャゲはそれなりの労力が必要なんだよ、分かってないなぁ」「そもそも結末分かり切ってる話、なんでそこまで拘る?」
……ろくに金も出さない? それなりの労力? 結末が分かり切ってる?
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
お前らこそ何も分かっていない。
私がどれだけあの結末を知りたいかを。
刺激されてしまった知的好奇心が、決して満たされないと分かった時の絶望を。
爆発する憤怒を。噴きあがる憎悪を。燃えあがる怨念を――
何 も 分 か っ て い な い
******
数日後
《次のニュースです。
昨日未明発生した、ソーシャルゲーム運営会社放火事件の続報をお伝えします。
社屋が全焼し、社員に多くの負傷者が出たこの事件、未だ関係者や周辺住民は不安を募らせています。
警察は、事件発生時周辺を徘徊していた30歳女、
崎上容疑者は『ソシャゲのイベントの結末が知りたくて課金を重ねたが、ランキング上位に入れず結末が分からず腹が立ち、会社に直接聞きに行った。非常識だと止められカッとなった』などと供述し、容疑を認めております》
《なお、この会社が運営するソーシャルゲーム『イブコニス』では、課金方法などでネット上でもトラブルが相次いでおり、中でも『ランキング上位100名までしかストーリーの結末を読めない』という部分が多くのユーザーに問題視され、事件の引き金になったとも言われております》
《この事件を受け、運営側は『イブコニス』の今月末でのサービス終了を告知しています。
また、これまでのイベントストーリーの結末を全て公開すると発表しており、ユーザー内でも賛否両論が……》
Fin
こんなソシャゲは許されない kayako @kayako001
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