010

「あなたもここに棲むんですか?ならこれからよろしくお願いしますね」

「ボクたちが先にいたんだから、この場所は譲らないよ!」

 

 狭くて薄暗い場所。

 視界には、これでもかというほどに溜まっているホコリ。

 ここは階段下に空いた小さな隙間。

 元はネズミか何かの住処だったのだろう。

 

「君たちはいつからここに?他にもいたりする?」

「うーん。そんなに経ってないとは思うよ。詳しくは忘れちゃった」

「僕たちだけだよ。あなたが初めてのお客さん!」

 

 私と話しているこの妖精たち、恐らく生まれてそう経っていない。

 人間で例えるなら、ようやく幼稚園に通い出すかどうかと言ったところだ。

 

「そっか。じゃあ初めての話し相手ってことで、もう少し聞いてもいい?」

「いいよー!」

「暇だったから大歓迎!」

 

 私は、無防備なこの幼生体たちの好意につけ込むことにした。

 

「誰から生まれたの?」

「水だよー!」

「水を作って、こうやって動かしたりできるの!」

 

 薄らと青い光を放つ彼らは、自分の体よりも大きい水玉を器用に投げ合っている。

 

「あなたは?どんな力があるの?」

「私?私は――」

 

 ここで本当のことを教えても良かったが、嘘をつくことにした。

 

「この光を見ればなんとなく想像つくと思うけど、火が使えるよ。見せてあげたいけど、ここは燃えやすいものが多いから、後でね」

「そうなんだー」

「もし火事になっちゃっても任せて!僕たちが消してあげるから!」

 

 私が放つ光は真っ赤だからか、彼らに疑う様子は無い。

 だが、本当の炎の妖精の光はもっと橙味が強いのだ。

 そんなことも知らない世間知らずということは

 

「それじゃ次の質問ね。

 他の子たちはどうしたの?2人だけしか生まれてこなかったわけじゃないでしょ?」

「うん。僕たち以外は別のところー」

「もっと人のいないところに行くんだって出ていったー」

 

 私の前で尚遊び続ける彼らには、やはり見てくれる親はいないらしい。

 とても好都合じゃないか。

 

「へえ、そっかそっか。ふたりぼっちで寂しいね」

「ちょっとだけね。でもね、ここはすごいんだよ!」

「美味しい食べ物が沢山あるの!それに」

「僕たちが大きくなったとき住み着ける人もいるの!」

「……そう。すごいねー」

 

 住み着ける人というのはレボルフのことで間違いないだろう。

 他の妖精と同じく、寄生することになんの躊躇いもないらしい。

 

「あ、そうだ!さっきガタガタ音してたし、何か食べ物あるかもよ!」

「そうだね!行こ行こ!あなたも来ていいよ。分けてあげる」

 

 彼らは一切の警戒なく、私に背を向けて飛んで行く。

 行先は、キッチンかな?

 私も彼らの後を追う。

 

 

「ほらね、やっぱりあった!」

「この食べ物すごくおいしんだー!」

 

 台の上に置かれたバスケットには、山盛りのクッキーが入っている。

 彼らはそこに乗り込むと、夢中で貪り始めた。

 

「あなたは 食べなくて いいの?」

「無くなっちゃっても 知らないよ?」

 

 人間の作ったものの誘惑は凄まじく、私も思わず手が伸びそうになる。

 あのクッキーは絶対美味しい。

 甘くてサクサクで、いつまでも食べていられるほどだろう。

 だからこそ

 

「今、私も行くよ」

 

 私はバスケットに近づく。

 手を伸ばして掴んだもの、それを思い切り外に引っ張った。

 

「なにす――」

「ひとりじ――」

 

「さよなら。君たちは生きてちゃいけないんだ」

 

 パラパラとヨウセイだったものが床に散らばる。

 この家から、2つの小さな命が消え去った。

 

「なんか、もうなんとも思わないや」

 

 壊した死体もそのままに、私はその場を後にする。

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ヨウセイ かうんとダウン @countdown_book

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