第40話 とある提案

   ◆



「ぉ……ぉぉぉ……」



 昼休み。俺は久々に校舎裏へきて、広告紙を敷いた地面に寝転んでいた。

 聞きなれた噂を聞くのも億劫すぎてしまい、こうして校舎裏に来たのだが……いいな、こういうゆっくりした時間。


 頭の中を空っぽにして、空に浮かぶ雲を見つめる。

 みんなの勉強を見たり、家のことをしたりして、ここ最近では一番疲労が溜まっている。

 こういった時間をすごすのも、本当に久しぶりだ。


 体の力を抜き、呼吸に集中する。

 遠くに聞こえる、昼休みを楽しむ生徒たちの声。

 近くを通る車の音。

 木々の上に止まっている小鳥の鳴き声。

 こっちに近付いてくる誰かの足音。

 ……足音?



「あんた、顔が土気色よ」

「……あ、地雷ちゃん」

「地雷ちゃん言うな」



 いつの間にか地雷ちゃんがそこにいた。

 俺をジト目で見下ろしている。

 最近は絡んでなかったけど、相変わらず、俺を見る目が冷たいな。

 あ、紫色。……何がとは言わないが。



「……大丈夫なの?」

「あぁ、みんなしっかり勉強してる。少なくても、赤点は回避できると思うぞ」

「じゃなくて、あんたの方よ」

「……え?」



 聞き間違いか? 今地雷ちゃん、俺の心配をした?

 顔だけで地雷ちゃんを見ると、地面に座ってパンにかじりついていた。

 ちょっと頬が赤い。え、まさか本当に?



「な、何よ」

「まさか地雷ちゃんが、俺の心配をするなんて思わなくて」

「ち、ちがっ……くはない、けど。ちょっとは絡む仲なんだし、心配して当然でしょ。文句あんの?」

「いや、ありません」



 なんで喧嘩腰なんだよ。心配してるんじゃないの?



「まあ、俺の方は大丈夫だ。毎回のことだしな」

「みんなに勉強を教えて、家のことまでして……よく倒れないわね」

「昔は倒れたけど、慣れた。体調悪いときは、ぶっ倒れるな。だから大丈夫」

「全然大丈夫じゃないわよね」



 俺からしたら、マジで大丈夫なんだけど。いつものことだし。

 まあ、たまにこうしてぼーっとする時間は必要だけど。


 あぁ……昼飯食わないと。

 でも今は食欲もない。疲労と眠気が勝つ。



「……ねえ、手伝う?」

「……地雷ちゃんが?」

「え、ええ。勉強はちょっと無理だけど、少しなら料理もできるし、あなたの負担を減らすことはできるわよ」



 指をもじもじさせ、こっちをチラ見してくる。

 確かに地雷ちゃんが手伝ってくれるなら、負担は軽減される。

 その分、俺は勉強を教えることに集中できるし、みんなの赤点も回避できる可能性は上がるだろう。


 でもそれは、地雷ちゃんに負担を強いることになるということ。

 さすがに地雷ちゃんに頼るのは、悪いというか……。



「私に遠慮してるなら、気にしなくていいわよ」

「でもよ……」

「私だって、みんなに赤点を回避してもらって、気持ちよく旅行に行きたいもの。そのためならなんだってやるわ」

「……じゃあ、悪いけど頼めるか?」

「ええ。泥船に乗ったつもりで任せてちょうだい」



 そこはかとなく大失敗の未来しか見えない。






「つーわけで、今日から地雷ちゃんがサポートについてくれることになった」

「いえーい! 地雷ちゃん、おっひさー!」

「つっきのー!」



 だきっ! あって早々、ハグをした2人。

 なんだかんだ、数週間会ってなかったもんな。



「じゃ、早速ゲームしよ!」

「いいわよっ。暇すぎて鍛えまくった私のテクを見せてあげるわ!」

「よくねーよ」

「「ほべ!?」」



 2人の脳天にチョップを叩き込む。

 何バカなこと言ってんだ、こいつら。



「月乃はこれから勉強。地雷ちゃんは悪いけど、買い出しを頼む。こっちが金で、こっちが買い物リスト。今日の夕飯は肉野菜炒めとチャーハンで」

「むぅ……わかったわよ。じゃあ月乃、勉強頑張ってね」



 地雷ちゃんがメモと金を受け取り、家を出た。

 と、月乃が何かに気付いたのか、顔を引きつらせた。



「ちょ、明義、待って。まさかとは思うけど、サポートって……」

「地雷ちゃんが勝って出てくれたんだ。これから試験が終わるまでは、地雷ちゃんが料理や家事の全般をやってくれる。俺は勉強担当だ」

「えええ!? てことは、明義が料理してる間のサボり時間がなくなるの!?」

「サボってたんかい」

「あ。……てへ☆」



 てへじゃないわ、てへじゃ。通りで、いつも想定より少し点数が低いと思った。

 まったく……地雷ちゃんにサポートを任せてよかったな。



「これからは、これまで以上にみっちり勉強してもらうからな」

「うえぇ~……休憩時間は?」

「週に1回しか勉強する時間がないんだから、そんな暇はありません」

「うそん」

「本当です。さ、部屋行くぞ」

「逃げるが勝ち!」

「逃がすか」



 逃げようとした月乃を抱き上げると、じたばたと暴れ出した。

 そんなに暴れても無駄だぞ。力だけなら、俺の方が上なんだから。



「うぅ、明義の鬼ぃ」

「鬼で結構」



 さて、せっかく地雷ちゃんがサポートに入ってくれたんだ。

 俺もしっかりと、みんなのことを監視させてもらおう。

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曜日別彼女 〜7人の女と浮気していると噂されています〜 赤金武蔵 @Akagane_Musashi

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