樹氷

梅緒連寸

⬜︎

違います。それはあなたの来た道で会って私が向かう道ではない。私はそちらには伺いません。明日の朝方からまた雪が降るそうですよ。嫌になりますね。冬だから仕方がありませんが足元の悪い事にはどうもいけません。私が向こうにいけなくなる。いま何時ですか。お昼過ぎですよね。朝から私とあなたしかいませんでしたね。なのにどうしてこここうなってるんだろう。ほら。見てください。足跡が。たくさん足跡が付いています。たくさんですね。20人ぶんぐらいですかね。どうしてあなたと私しかいないのにこんなにたくさん汚れているんでしょう。不思議。どろどろの足跡がこんなに。野菜は好きですか。野菜。食べた方がいいですよ。健康な生活には神聖な野菜と水が欠かせないんです。神聖さが大切なんです。貶められたものでは駄目です。清められて尊ばれた地に育まれ手洗いを最低でも10分以上は済ませてから茎の部分を掴むんです。そうしたら土から真っ白い純潔な根野菜がすこうしだけ覗くんです。ストリップを見た事ありますか。そうですか。あなたは真面目そうですものね。ええそれであなたには分からないでしょうけどちょうどアレを覗かせる時みたいに細やかで貞淑さを重んじつつ引き抜くんです。重要なのは添えた手に生えた爪の間が清潔である事でありまして先ほど説明した手洗いの理由がここにあります。この段階から私たちの農耕という手段を用いたアプローチにて非人なる所業の文化的社会影響といいますか罪を母たる海原に流し奉るという訳です。問題は人間の手に生えている指が多すぎる事であって、あまり執着を捨てきれぬようでしたら必要な器具が一式になって雨の日の防空壕を揺るがすような大きな声で規制緩和を求め明日は今日よりも2℃低い気温となる見込みですが満場一致で不一致です。雪解けの季節の晴れ晴れとした未来の中で私は何度も何度も胸の中の観音像を掻き毟り薄く膜になって張り付いた金の模様が俗情を捨てきられず屠殺上にある応接用の便所で声を殺しては泣いていたものですがそれも今となっては励みとなる思い出です。雪の下に恐るべき禍害が捲られていたとしてもなぜこれほどの足跡をつける必要があるのでしょうか。朝から夜まで飛行機が飛びっ放しなもので全裸の街路樹に積もった白い雪がきいきいと音を立てては震えるのです。びっしりと穴の開いた全裸が立ち並ぶあの道は違うんです。私の道じゃない。行きたくない。

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樹氷 梅緒連寸 @violence_

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