幻想の戯れ

みゅな🍯

戯れ【壱】 焼きそばパーティー

※これは『朧月幻想譚』10話の直後の話になります。


ここは花月館。

そこにはその館の主と一緒に、霽月という名の陰陽師、絶刑という名の生き人形、庭玉という名の引きこもりが居候していた。



「ちょっと自分の説明酷くない?」


「まぁ気にしないでって」


「ところでびっきー、麺まだぁ?じゃないと焦げちゃうよー」


「あともうちょいだから待ってろ」



深祝は携帯ゲーム機を弄りながら口を動かしていた。奏真は野菜と肉を菜箸で炒めており、この館の主、尊に関してはその様子をじっと見ながらもポテトを食っていた。ついでにそんな彼の頭に乗ってポテトを食いながらも焼きそばをじーっと見るサリィ。そして奏真の隣に座っているのは本日からこの花月館に住むことになった少女、歌燐。彼女は奏真の掴んでいる菜箸を目で追いかけていた。



「深祝、もうすぐご飯だからゲームはしまおうか」


「了解」


「おまたせしました、今からぶっこみますので」



キッチンから麺の入ったフライパンを持って顔を出したのはみくりという陽響と同じく種類の生き人形のメイドである。彼女は現在家に帰れる状況ではないため、今日限定で花月館に泊めさせてもらうことになった。話を戻して彼女は麺をフライパンからホットプレートへと移した。



「そういえばみくりさん、ふわちゃんには事情伝えたの?」


「ええ、ふわり様には了承を得ていただきましたし、ゆっくりおやすみさせてもらいますね」


「そっかぁ〜、じゃあゆっくりしていってね〜」


「あの…そういえば絶刑様…は?」


「陽響でしたらソースを取りに行ってますよ」


「あ、やっべ大変だ」


「どうしました?」



陽響は困ったような顔をしてキッチンからバタバタと飛び出した。その様子からしてみんなは大体察した。そう、恐らく……



「……ソース買い忘れた」


「陽響ぃ!!!」


「ごめんって!ソースないの忘れてたんだよ!!醤油でもいいか?」


「えー、やだ!今日ソースの気分なんだけど」


「せっかく皆で食べる焼きそばパーティーなのだからソースの方がいいな」


「僕もソースがいい!」


『僕も僕もぉ!』


「お前ら我儘すぎだろ、まぁでも今日はソースの方がいいよな…。奏真買い物行ってくんね?」


「やだ」


「おいっ」


「じゃあ…私が行きます!」



困惑した状況の中、手を挙げたのは歌燐だった。しかし彼女に買い物を行かせるには少々問題点があったのだ。そう、彼女は商店街の場所がわかるのかどうかだ。



「いいけど、場所わかんのか?それに今日歓迎するやつに買い物行かせるのにもなんかあれだし…」


「じゃあ歌燐が行くなら僕も行くよ!」


「どっちなんだい」


「その方がいいな、陽響は焼きそばが焦げないように調整しなくてはならないしな」


「とゆわけで頼んだぞー」


「はーい!ほら歌燐早くソース買いに行こ!」


「了解であります!」



奏真と歌燐は陽響から買い物袋を貰い、そそくさと商店街へと向かう。






「さっっっむぅ……」


「そうですね…、如月ですものね…」



そう、今の時期は如月桜六日の夜9時近く…。まだ雪はしんしんと振り積もる頃でもあるため二人は手を擦り合わせながら商店街へと向かうのだった。



「全く陽響ったら…ソース買い忘れるとか…」


「仕方ないですよ、調味料って買い忘れることが多々ありますから…。…あの、質問があるのですが…」


「ん?」


「どうして着いてきてくれたんですか?」


「んー、陽響の言っていた通り歓迎される側の君に買い物行かせるのもどうかなのかと思ったのと、商店街の場所わかるかなって」


「私方向には自信がありますので商店街の場所は全て記憶しております!」


「あはは!そうなんだ?あ、あとね、君のことについてもっと知りたいんだよね!外の話とか色々!」


「あー、そういえばそんな約束してましたね」



歌燐は思い出したかのように言う。目を輝かせる奏真を前に歌燐は何を話せばいいのかと顎に指を当てて考えてみる。



「そうですね…、霽月様もそうなのですがここの方々は和服の方々が多いのですね」


「あー、そうだねぇ、たまに和服となんか袖がないものを合わせた特殊な服を着る時があるけど、そういうのってお金持ちの人しか買えないんだよね〜」


「それを”洋服”って言うんですよ」


「よーふく?」


「そうです!私1着2着はありますので、霽月様にも後に見せてあげますよ?パーカーというものなんですけど、私には大きすぎるものですので…」


「いいの!?あ、でもいいの?僕、男だけど」


「大丈夫です、男の人でも普通に合うものですから!」


「そっか!じゃあ帰ったら見せてちょ!」


「了解であります!あ、何か門らしきものが見えてきましたよ!」



そんな会話をしているうちに商店街と大きく文字が書かれている門が見えてきた。ところどころ雪に埋もれて掠れているが。



「ここにソースがあるのですね!」


「陽響のいつも行ってるスーパーに行けばきっとあると思うけど…」


「ではそこに向かってみましょうか!でもどこにあるんですか?ここ、商店街と言っても沢山ものがありますけど…!」


「…いつも陽響に頼ってたツケが回ってきたなぁ」


「霽月様ぁ!!」


「とりあえず1番おっきいところがソースあるところだよ!総合スーパーだしね!」


「むっ、それもそうですね!」



二人は門の中に潜り、この商店街の中でいちばん大きいであろう総合スーパーへと向かった。しかしそこに至るまでの道がとても長かったので奏真はヘトヘトになってしまった。



「ぜぇ…ぜぇ…」


「霽月様!こんなところでへばっている場合ではありませんよ!」


「いや…僕君に頭やられたし、探し回ったし、地下通路でめっちゃ走ったし、戦闘もしたんだしでめっちゃくちゃお腹空いてるし…もう…無理ぃ…!」



確かに奏真は歌燐から頭を殴られ、歌燐を探すために探し回り…、地下通路という足場が悪い所を歩いたり、九命猫を追いかけ回したり、人魂にされたりと…かなり動き回っているというのにそれを食事無しで過ごしていたのだから倒れてしまうのも当然である。歌燐はそんな彼に申し訳ないと思いつつも、なんとか奮起させようととある策をあげる。



「お、お気を確かにぃ!後ほど揚げ物を買ってあげますから!ほらコロッケ!かぼちゃコロッケとかめちゃくちゃ美味しそうですよ!?」


「ホントォ!?」



立ち上がらせることに成功してホッとしてるのと「そんなので釣れるんだ」と心の中で突っ込む歌燐だったが、何がともあれ奏真を動かすことには成功した。



「じゃ!早くソース買お!ついでにかぼちゃコロッケだぁ!」


「おー!!」







「いやぁ、なんとか買えてよかったよ〜」


「そうですね、美味しいですか?かぼちゃコロッケ!」


「うん、出来たてホカホカ生き返る〜!そういえば歌燐は食べなくていいの?お腹すいてるんじゃ…?」


「あ、大丈夫です!私は焼きそばのためにお腹に空きを作ってますので!」



ソースの入った袋を持ちながらもにこっと笑う歌燐。それに対して奏真は何か思うことがあったのか、コロッケを半分にして歌燐に差し出した。



「はい」


「え?大丈夫ですよ?」


「二人で食べた方が美味しいと思うよ、それにこのお買い物に関しては僕完全なお荷物に近いことになっちゃったからさ」


「でも…」


「ほら!あーん!」


「ふぇ、あーーん…んぐっ」



奏真にコロッケを提供された歌燐。歌燐は口の中に入れたコロッケをもぐもぐと噛む。



「お、美味しいですね…?」


「でしょ!はいこれ手に持って!」


「え、あ、はい!」



いざ手に持ってみるコロッケ。そこから伝わってくる熱で何故か全身が暖まるような感覚がした。これがコロッケの力か…!と思いながらも奏真の方へ見ると奏真はにこっとしながらコロッケを頬張っていった。



「さ、早くコロッケ食べちゃお!陽響に怒られる!」


「は、はい!」






無事ソースをゲットし霽月館に帰れた奏真と歌燐。陽響は「サンキュ」と出迎えると同時にソースを受け取り、居間へと向かう。奏真と歌燐とそそくさと靴を脱ぎ、陽響の後を追う。



「たっだいまー!」


「おかえり」


「んじゃ焼きそばできるぞ、もうちょい待ってろ〜」


「ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪」



奏真は目を輝かせながら焼きそばを見る。味見しようと手をのばすが尊によって止められた。



「奏真、コロッケを食べておいてつまみ食いはダメだぞ」


「へ?(°▽°)」


「自分には視えていたぞ」


『いいなぁ( ¯꒳¯ )』


「奏真、お前コロッケ食べたのかよ?」


「いや、だってお腹すいたんだし!!我慢できなくてぇ!!」


「そ、そそそうですよ!霽月様は私に殴られ私を探し回り地下通路走り回ったり戦闘してりゃそりゃ疲れますよ!!」


「お前随分やばいことしたんだな」



必死に奏真に味方する歌燐に的確なツッコミを入れる陽響。

まぁ別にコロッケの1個や2つどうてこともないと思い、焼きそばを再び混ぜていく陽響。



「あれ?陽響怒らないの?」


「まぁ最終的に全部完食してくれたらそれでいいし、お前買い物行ってくれたからな。チャラにしてやるよ」


「ありがとうございますぜっけん様ぁ!!」


「じゃかましい、てゆかぜっけんじゃなくてぜっけいだし」



そんな奏真と陽響の会話にクスクスと笑う尊とみくりと歌燐と呆れた顔で見つめる深祝。みくりはここで立ち上がり、歌燐の肩をトントンと叩いた。



「歌燐さん歌燐さん」


「へ?」


「少しよろしいですか?貴女にお渡ししたいものがございまして。」


「あ、はぁ…?」



みくりにプレゼントがあると言われて、歌燐は少しだけ胸を昂らせながらも居間から席を外した。






「みくりさん、お渡ししたいものというのは…?」


「実は陽響とお買い物しに行った時に、同時にある物を買ったんです」



みくりの荷物が置いてある部屋にたどり着くと、みくりは紙袋の中からあるものを取り出し、それを歌燐に広げて見せた。



「これは…?」



歌燐はそれを手に取る。ふと力が抜いたときそれはさらに大きく広がらせた。足元に触れる微かな音。ここでみくりは部屋の電気を明るくする。今まで明かりつけてなかったんかい。



「かわいい……着物?」


「ええ、撫子色の着物とかわいいエプロン。貴女にきっと似合うだろうと思いまして」



確かに撫子色の着物の柄には撫子がある。これを見た歌燐はたいそう気に入ったようで…



「あの、これ今着てもよろしいでしょうか?」


「もちろん、貴女の仕事服になるのですから男の子達に見せてあげてください(*ˊ˘ˋ*)」


「は、はい…w」




数分後、みくりに手伝ってもらいながらも着物とエプロンを着用する。

見事にサイズはフィットしており、興奮して一回転する。



「こんな素敵な服、ありがとうございます!でもお高かったですよね?」


「それは気にしないでください、喜んでもらえれば私は嬉しいですので。それではそろそろ焼きそばとか出来上がっただろうし戻りましょうか」


「はい!」






「かりりんとみくりん、どこいったんだろ」


「部屋には行ったみたいだが」


「もうお腹ぺこぺこだぁ〜」


「お待たせしました」



奏真と陽響が焼きそばをかき混ぜていた時、みくりと服を着替えた歌燐が現れた。歌燐はそそくさと皆の前に立ち、服を見せるようにくるりと一回転した。



「エッヘン!どうですか!?」


「かっっわいい〜〜💕」


『very cute!!!』


「ほう、実に愛いな」


「(//∇//)」



歌燐は分かりやすく照れていると奏真の隣の席にちょこんと座る。

微笑ましく見ていたみくりも陽響の隣に座り、陽響の方を見た。



「そういえば陽響の方は何も言ってきませんが、どうですか?可愛いですか?」


「え?……ん、まぁ…可愛いんじゃねーの…?」


「ほんとですか?」


「うん」


「(*º▿º*)」


「ほらほら!早く焼きそば食べよ!じゃないと焦げちゃう!」


「そうだな、では皆一緒に…」


「「「いただきまーす!」」」




こうして6人+1匹はそれぞれ焼きそばを手を取り、食しましたとさ。


おしまい♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幻想の戯れ みゅな🍯 @myuna2525

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ