彼と彼自身の凍った時間
高黄森哉
時間
時に、時を止めることが出来たらなぁ、と思った音はないだろうか。この少年は、まさにそんなことが出来る超能力者である。彼は、好きなときに時間をとめることが出来る。彼は、そのことについて理解はしているが、いまだ試したことはない。超能力を使うことは、道徳的に問題があるうえに、どのような副作用があるか不透明であったからだ。それ以上に、彼が彼自身の超能力について、信用していない、ということもある。それは、彼が、彼自身の超能力を利用したことがなく、単に天啓という形でしか、その存在を認知していないからである。彼が能力を使用してこなかったのは、彼の心が純粋だからではなく、彼自身の能力を使う機会がなかった、という理由である。それも仕方がないことなのかもしれない。普通、人間は時が止まって欲しい、という状況に出会うことはない。仮にあったとしても、時が止まっていて欲しいと思う間に時が進んでしまいその時には時すでに遅しということが多い。トラックが突っ込んできてようやく、止まれ、と脳が信号を出しても、その時にトラックは、脳みそをぐちゃぐちゃに踏みつぶしている最中だ。トラックの例程、致命的でないにせよ、彼もそういったことは、時折、経験していた。
さて、彼はたった今、能力を使おうとしている。
彼は、彼の好きな子が、彼の真横を通りかかった時、彼女の下着の色を確認したくなった。それは、彼の好奇心がためであるが、欲求の内容は、実は、彼の彼自身の能力をテストしたい、という冷めたものであった。彼は、彼の持つあるいに反社会的能力をテストする言い訳が欲しくて、彼が作り出した架空の欲求を客観的に、あの少年はまだ子供だから仕方がないといった具合に、彼の彼自身の未熟さに転嫁することにしたのだ。
時は満ちた、と言わんばかりに、時鳥がなくと、彼は、誰から教わったでもない能力を行使した。その時、時間は凍結した。時計の針は停止したし、彼の好きな子は歩行途中の状態を維持し、時鳥は羽を広げ滞空し、彼の彼自身の身体は固定された。
彼は凍っていた。それは、文学的言い回しではない。例えば、彼が彼のしたあるいに反社会的な行動に耐え切れなくなり、彼自身の心の機能を廃絶したとして、その心情について、彼が凍ったと表現した、というわけではない。着の身着のままの飲み込みで、または裸の言の葉で、すなわち文字通りの意味で、字義通りの解釈で、彼は凍ってしまったのだ。
それは何故かというと、彼の彼自身の能力により、周りの物体が動くのをやめさせられたからだ。彼と彼を取り巻く物体は、原子レベルで動きを固められた。温度と言うのは、彼や彼を取り巻く物体を構成する粒粒の震えである。震えが大きければ温度が高くなるし、震えが小さければ温度が低くなる。この震えが止まるという事態は、これ以上なく、冷たくなったことを表していた。この状態は、絶対零度と呼ばれている。
彼が凍ってしまった今、彼と彼を取り巻く環境を解凍するすべやそういう能力を有した人間はない。いるのかもしれないが、取り敢えず、その人は、その人のその人が持つ能力を行使しなかったようだ。それも仕方がないことなのかもしれない。普通、人間は時が進んで欲しい、という状況に出会うことはない。仮にあったとしても、時が進んでいて欲しいと思う間に時が止まってしまいその時には時すでに遅し、ということが多いのである。
彼と彼自身の凍った時間 高黄森哉 @kamikawa2001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます