機械胴体
@EnaKagurazaka
機械胴体
※この短編小説は、夢の中のワンシーンをもとにしたフィクションです。
私は、台車に載せられた箱の中から、顔を出していた。部屋一面は真っ白だ。そして目の前には、風呂場に設置されているような長方形の鏡が見える。
私は、首から下を失ってしまった。今、箱の中に納まっているのは、機械化した首から下の
話を聞きつけた母が、私の部屋に駆けつけてきた。そして、箱から顔を出す私を見るやいなや、心配そうな顔を、私に近づける。
「えな、何があったの……?」
母が、私の頬を両手で優しく挟んだ。その瞬間、私の顔から彼女の両手が離れる。母は、その場に倒れ込んでしまった。
「えな………どうして、こんな姿に……!!」
ショックのあまり、目を剥きながら涙を流す母。そして母の両手から離された、生首の私は、ゴトンと音を立てて床に落ちた。
「お母さん、彼女は事故で、首から下を失ってしまったのです。こうすることでしか、彼女は生きられないのです……」
白衣を着た男性の医師は、母にそう告げた。
気がつくと、どういうわけなのか、少し前の時間に戻っていた。そして、時間が戻る前と同じように、首から下が機械化した状態の私は、台車に載せられた箱の中から顔を出していた。母が、やってきた。今度は、できるだけ悲しませないようにしたい。だから私は、自分の身体が首から上以外全て欠損してしまったことを伝えた。
母は、時間が戻る前とは違って、少しショックを受けただけで済んだ。私がそのことを伝えたことで、彼女は心の準備ができたのだろう。そしてふと、私の頭に、幼少期の記憶が浮かび上がってきた。青い空の下、野原を駆け回って遊んでいた。地面を踏みしめる感覚を、風が切る感覚を感じていた。
私の胸に、もう存在しなくなってしまった胸に悲しみがこみ上げてくる。もっと、身体で感じたかった。もっと、いろいろなものに触れたかった。私の腕も、脚も、腹も、首から上以外は全て、機械になった。だからもう、首から下の感覚に触れることはできない。手で水をすくった感触も、抱きしめられたときのぬくもりも、いつか忘れてしまうのだろう。耳が聞こえなくなり、慣れ親しんだ音を忘れていったベートーベンのように。
機械胴体 @EnaKagurazaka
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