第12話 父②

 そして現在。

 父禿は高校生になった千早がいつ怪獣に戻ってもいいように作戦をしっかりと準備していた。

「千早、お前が怪獣になったことに疑念を持てないほど、皆が襲ってくれるからな」

 父禿の作戦は非常にシンプルであった。

 千早が怪獣になった時点から、千早が怪獣になぜなってしまったのか、疑問を持てないほどに千早を追い詰めるのである。

 千早も日本トップのヒーロー一家の一員である。

 そう簡単にくたばることはない。

 もちろん、追い詰める側も一流を選んだ。

 初日は日本トップの怪獣殲滅教育を行ってきた殲女の学生および教員を動員した。

 幸い、千早には人に好かれる才能があった。

 彼の優しさと他者を認める心の寛容さはヒーローとしての実力と比例するように素晴らしいものであった。

 千早は圧倒的なメンタルイケメンであった。

 この作戦を遂行するにあたって、多くの人手を必要としたが、皆、そんな千早の人間性を知っているからこそ協力したいと快諾してくれたのである。

 父禿は考える。

 自身の親が怪獣であるということを伝えることは容易である。

 しかし、それでは父怪獣も言ったように、最初から自身が怪獣と認識していた父怪獣と違ってショックを受ける可能性が高い。

 周囲が受け入れてくれたとしても、千早自身が受け入れることができなければ最悪死を選ぶかもしれない。

 怪獣というこれまで殲滅対象として見てきた存在に自身がなってしまうことの衝撃に耐えられないかもしれない。

 優しい嘘。

 この世には便利な言葉がある。

 しかし、それは違うと父禿は思う。

 これは家族としてのエゴであると。

 息子に真実を告げずに、真実をひた隠しにしながら、息子を守るためだけにこちらが一方的にエゴを押し付けているだけであると。

 だから、責任は全て父にある。

 そう、父禿は息子を守るために全ての清濁を飲み込んだのである。

 父禿はそのことが原因で禿たと言い聞かせている。

 原因は遺伝だというのに。

 そこは飲み込めないのである。

「それで、この作戦で最も功を出したものが千早と結婚できるというお約束も守っていただけるんですよね?」

 ベストナインの鋭い眼光が父禿を捉える。

 ゲンドウポージングで余韻に浸っていた父禿はじんわりと背中に冷や汗をかく。

「うん、もちろん」

 ―――すまない

 そう父禿は心の中で千早に謝った。

 この作戦を遂行するためにお前の操を犠牲にするしかなった。

 仕方ないなかったのである。

 千早を愛する面々が強すぎて父も怖かったのである。

 父禿は震える手を強く握りながら力強く声を発した。

「それでは本日は解散!」

 息子を守るための戦いは始まったばかりである。

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九人の少女は愛する彼と結婚するために彼を全力で殺しにいきます りつりん @shibarakufutsuka

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