エピローグ 大神吠

(あの時は大変だったな……。アンコールではガイアの方にも行かされて、もう一度女装で歌わされたし)


 冬晴れのある日。


 暖房の良く聞いた流星本社の会議室で、俺は回想する。


 結論として、アンタゴニストはライブ勝負に勝った。


 黄金の林檎は解散し、経堂は処分され、刑事告訴が検討されているという。


 ガイアは敢えてその経緯と顛末を全て公表する道を選んだ。


 一部のユーザーはガイアを非難したが、大勢としては流星はもちろん、ガイアも黄金の林檎メンバーも被害者であるという認識で落ち着いたようだ。


「――くん! 三雲くん! 聞いてるの?」


「はい。それで、なんでしたっけ?」


 成増さんの呼び声に我に返る。


「だから、案件が来たわよ! 案件!」


「案件?」


「ええ、女性ファッション誌の表紙よ! おめでとう。Ⅴのグラビアと女装した三雲くんのスナップショットを併載する企画みたいね」


「実家に帰らせて頂きます」


 俺はノータイムで席から立ち上がる。


「うそうそうそ! ほんの冗談じゃない。いや、案件が来たのは本当だけど、ちゃんと断ったわよ」


 成増さんが取り繕うように言う。


 いや、嘘だな。これ、俺の反応次第では受けるつもりだったろ。


「あのー、ボス」


「ん、なに、ルル?」


「ボスはもう女の子の格好はしないんですかー? ルル、またかわいいボスが見たいですー」


 咲良が俺に無邪気な期待の瞳を向けてくる。


「ねー。そんなにかわいいのにもったいないよねー。あの時にみんなで撮った集合写真、ウチも待ち受けにしてるよー」


 籾慈はスマホを俺の方に向けてきた。


 こっちはわざとだ。


 からかってやがるな。


 合宿でしばらく同居生活したせいか、籾慈は俺に対してどんどん馴れ馴れしくなっている気がする。


「……俺は基本的にVはガワだけで勝負したい方だから」


 俺は震える声で答える。


 女装なんてもう絶対しない。


 絶対にだ!


 でも、俺がリアルを晒したせいで、なぜか吠の人気はさらに上がった。


 中の人がリアルショタか少女かは、今でも論争になっている。だが、成人男性であるという意見はほぼ皆無で、あっても異常者扱いである。っていうか、もっといえば少女派が優勢である。


 解せない。


「それで、今日は何の用なの? 大会が近いから早く練習したいんだけど」


 明璃はスマホをいじりながら呟く。


 彼女は相変わらずだ。


 ブレないしブレる必要もない。


「ああ、そう。それよね。――みんな、入って!」


 成増さんの合図で、ぞろぞろと三人の女性が室内に入ってくる。


(まじかよ……)


 俺は目を見開く。


 その全員に、俺は見覚えがあった。


「こんにちは! シューティングスター六期生、人魚系Vtuberの微泡真珠びほうしんじゅです! よろしくお願いします!」


「……同じくシューティングスター六期生、幽霊系Vtuberの五寸釘呪ごすんくぎのろいです」


「シューティングスター六期生、悪の女幹部系Vtuberのリオネールでーす」


 三人が綺麗な角度で礼をした。


「わっ、わー!」


 驚いて後、目を輝かせる咲良。


「お久しぶりです!」


 籾慈はかしこまって敬礼した。


「うわっ」


 明璃が顔をしかめる。


「えっ、まさか、引き抜いたんですか?」


「うん。ほら、ガイアって男性Vがメインじゃない? だけど、今回の一件でガイアの女性Vの開拓計画は頓挫したでしょ。それで、三人をどう扱っていいか持て余してたみたいだから、平和的に引き取ってきたのよ」


「なるほど」


 平和的に、か。まあ、ガイアはシューティングスターに負い目があるし拒否はしにくいだろうな。


「で、事件もあって、しばらく、風当りが強くなる可能性があるから、アンタゴみんなとコラボして、彼女たちがシューティングスターに受け入れられやすいような空気を作って欲しいの。特にホエるん! 頼んだわ」


 成増さんがビシっと指をさしてきた。


 まあ、あのまま黄金の林檎が解散で終わるのも後味悪いしな。


 もちろん、ボランティアではなく、誰が将来の人気Vになるかは予測しがたいところがあるので、早い内から唾をつけておくのは戦略的にも悪い話ではない。


「わかりました。えっと、真珠と呪はなんとなく方向性が分かるんですけど、リオネールは何をやるんです?」


「私? オタク共の辛口ファッションチェックとか、恋愛相談に乗ったりするつもり。ホエるんも女装したい時はいつでも言ってね」


 鵯越さんがそう言ってウインクしてきた。


 なるほど、性格が悪いのを隠さないスタイルか。


「……女装は遠慮しておきます。その方向性なら多分、日頃は偉そうにしておいて、たまに俺にゲームでボコボコにされて弱みを見せるスタイルがいいんじゃないですかね」


 俺はちょっと考えてから言う。


「私はこの前の女装姿に刺激を受けたので、吠用の新曲を作ってきました。幽霊と狼、共に夜の眷属同士よろしくお願いします」


 貞子Pが真顔で言った。彼女は素で厨二が入ってるタイプか。


「一応、私が作詞したけど、気に食わなかったら、あなたが自分で考えて」


 レナちさんが感情の読めないすまし顔で言う。


「お二人とも、ありがとうございます」


「ボスいいなー、私もお二人とお歌配信したいですー」


「流星のイメージソングも作りましたので、一緒に歌いましょう」


「私もいいわよ。変な歌い手よりは全然ルルちゃんの方が上手いし」


「本当ですか!? わーい」


「よかったね、ルル。大人気だ」


「用が終わったならもう帰っていい?」


 今後も業界にはどんどん新しいVが出現し、人気を博することだろう。


 だが、俺はその誰にも負けるつもりはない。


 なにはともあれ、大神吠は今日も、シューティングスターのトップVtuberである。



      了

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女性限定Vtuber事務所の頂点は合法ショタで元プロゲーマーの俺な件――Vアイドルグループのリーダーとして美少女たちと天下を狙うことになった―― 穂積潜@12/20 新作発売! @namiguchi_manima

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