第22話「エインセルとティターニア」
「ならいいけど」
と言ったアイリの顔は明るくない。
妖精が増えるなんて想定外もいいところだ。
これからどうしよう?
考えたところでいいアイデアなんて浮かばない。
「そんな顔をしてどうなさいました?」
とティターニアが気遣う。
「おおかた、こんなはずじゃなかった、みたいなことを考えてるんでしょ?」
エルの言葉にアイリは驚く。
目が合った妖精はにやっと笑い、
「だいぶあなたの思考はわかるようになったもんね」
得意そうに胸を張る。
「うう、わたしって単純かな?」
アイリは手放しで喜べない。
むしろずーんと落ち込む。
「うん!」
エルは最高の笑顔でとどめを刺す。
「あう」
アイリはがっくりと肩を落とした。
勝利したエルはケラケラと笑う。
「仲良しなのですね」
ティターニアがうれしそうに口元をほころばせる。
「仲良し、ですか?」
アイリは意地悪をされてる気もして、素直にうなずけない。
「ええ」
ティターニアの返事は力強い。
「愛情表現ですよ。あなたにはそう思えないかもしれませんが」
とティターニアが言うと、
「ばっ⁉ ち、ちが⁉」
エルが真っ赤になる。
否定しようとして舌が上手く動かせてない。
「あ」
アイリにもすごくわかりやすかった。
「物語に出てくる『つんでれ』ね」
普段は意地悪したり、当たりが強い。
だけど素直になれないだけで本当は、というやつだ。
リエルとふたりで読んだ物語にたまに出てきた。
「つん……?」
ティターニアには通じず、首をひねる。
「ち、違う!」
エルは知っていたらしく、ムキになって否定した。
「なぁんだ」
アイリはなんか安心した。
エルに対する理解度が上がった気がする。
「も、もう……」
エルは否定しても無駄だと悟ったか、力を抜く。
「あたしのポジションが」
何やらこだわりがあったらしくぶつぶつ言う。
「妖精たちの間でエルってどうなの?」
アイリは思ったことをたずねる。
「親しい相手にはあなた相手と同じです」
ティターニアの返事から彼女は何かを察した。
「よほど気に入られたみたいですね?」
それに気づいたティターニアはくすっと笑う。
「は、はあ……」
何だかアイリまで恥ずかしくなってしまう。
「こ、このティターニアだってけっこうからかい好きだからね? 信じちゃだめなんだからね?」
とエルは真っ赤になって言う。
両手を忙しく動かし、必死さがにじみ出ている。
「うん」
アイリはあっさりと信じた。
「だって同類なんでしょ?」
その点を疑ったことはない。
「あら、お見事」
ティターニアは目を丸くする。
「ふ、ふん」
エルは勝ったような表情を作った。
「さすがわかってるじゃん。はい」
と言って手を叩いて、金色の花を出す。
【書籍化】日陰魔女は気づかない 相野仁 @AINO-JIN
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