制裁

梅田 乙矢

SNS

近頃よく見かけるSNSのアンチコメント。

別にその人のファンというわけじゃないが、見ていて気持ちのいいものではない。

色々なSNSのコメント欄を読んでいるとそれは突然現れる。

本当に目の毒だ。

テレビで活躍している人や配信などをしている人達に敵意は向けられ彼ら彼女らはみずから命を絶ってしまうことも少なくない。

見ていて悲しい気持ちになる。

この頃では一般の人達も巻き込まれているようだ。

何年か前から流行っているウィルスやそのワクチンのせいで議論が白熱している。

議論というよりほぼ喧嘩になってしまって

いるが…。

相手をおとしめようとありとあらゆる罵詈雑言ばりぞうごんを書き連ねているが、怒りの矛先ほこさきが間違っているんじゃないだろうか。

誰に対して怒っているのか。

自分の考えや思ったことを言っただけで全く知らない人から信じられないような暴言を吐かれる。

自分の価値観を押し付けてあなたは間違っていると罵倒する。

それじゃ、「あなたは間違っている」と罵倒している“あなた”は間違っていないのか?

はなはだ疑問だ。

みんなストレスが溜まってるんだな。

知らない誰かに吐き出すしか方法がない

のか。

嫌な世の中になったもんだ。

いつもならアンチコメントを見かけても

“またか”と思って流しているのだが、

ある日偶然見かけたコメントに突然僕の中で何かがはじけた。

自分でも驚いてしまった。

いつもは無視してすぐ忘れてしまうのに。

そのコメントは、心の病で苦しんでいる人へ向けられていた。

「お前は病気じゃない。みんなの気を引きたいだけだろ」

「病気だと言っていれば同情してもらえると思ってるんでしょう」

「俺が心を病んでる時は携帯さえ見れなかったけどな」

他にもたくさん書かれてあった。

心の病だと言っている人に追い打ちをかけるように罵倒している。

この人達はなんだ?人を殺したいのか?

自ら殺人鬼になりたがってるなんて呆れたもんだ。

もっと呆れたのは嫌いだと言っている割には相手をフォローして逐一ちくいち動向を見守っていることだ。

わざわざフォローまでして文句だけ言うなんて それは嫌いじゃなくて相手のことが気になって気になって仕方ないとしか思えない。

そんなことまで するなんて それはもう好きってことじゃん。


何してんの?


怒りを通り越して呆れてしまった。

コメントしてる人の誰か一人でも居場所を特定できないものか。

僕はある人物に目をつけた。

誰彼構わず噛みついているようだが、その中でも一人の人間に異様に執着している。

ブロックされるたびに毒を吐き

「新しいアカウントを作ればまた見ることができるんだからな」

といきがっている。

そこまでする意味って何?

第三者から見たらただの暇人でそんなことに時間をついやすくらいなら他のことに目を向けたらどうだと思ってしまう。

僕は標的をさだめさっそく動き始めた。


特定班という人達がネットの世界ではいるらしい。

お陰様で住んでいる場所も名前も仕事も家族構成も全てが分かった。

さて、会いに行くとしよう。

ご丁寧に写真まで送ってくれたから顔も分かっている。

僕は家から少し離れたところで待ち伏せすることにした。


帰宅したのは40代の女で離婚して今は一人暮らし。

あんなに人をこき下ろしていた人物とは思えないほど普通の人だ。

僕は、女がドアを開けた瞬間に歩み寄り

ちょっと道を尋ねたいと話しかけた。

そのまま力任せに家の中へと押し込む。

すぐさま口にガムテープを貼って手錠を

かけた。

女の髪を引っつかみ家の中に引きずり込んでダイニングキッチンの椅子にロープで縛りつけた。

何が起こっているのか分かっていないよう

だったので丁寧に説明してあげた。

「アンチコメントいつもご苦労様。

どんな奴があんな醜い言葉を書いているのか気になって探していました。

出会えて嬉しいです」

女は目を見開いて僕の顔を穴があくほど見ている。

そんなに見たって初対面だから分からないと思うよ?

それはそうと…女の顔から視線を指へとうつし まじまじと見る。

この指だ。この指があの汚らしい言葉を打ち込んだのか。

そうだね……そんな指は、いらない。

切り落とそう。

僕は持ってきた道具で指を一本ずつ切断することにした。

女はくぐもった叫び声を上げジタバタしている。

しっかりその目で見とけ。

自分がやったことのつぐないをさせてやる。

一本、また一本と床にゴトと落ちて無くなっていく。

鉄のような臭いとともに赤い血が床にとめどなく流れている。

すべての指が無くなった時 まるでジャンケンのグーをしているようで何だかおかしくて笑ってしまった。

女をふと見ると意識が朦朧もうろうとしているようだ。

しっかりしなさい。

あなた、人を傷つけるだけ傷つけといて自分は無傷でいられるなんて思っちゃダメだよ。


さて、次は、目だな。


目が見えるから余計なことを書いてしまったと思うんだ。

見えなければ書くことはなかっただろう。

僕はスプーンで片目をえぐり出しはじめた。

意外と眼球は大きいんだね。

思っていた以上にスプーンは目の下の奥の方へと入っていく。

くり抜いた目を残った片目に見せてやる。

「これがあったから見なくていいものを見てしまったんだね。

無ければあんたも不愉快な思いをせずあんなこと書かなかっただろうから」

テーブルの上に目玉が乗ったスプーンを

置く。


「そうそう、お腹空いてないかい?

仕事終わりで何も食べてないでしょう?」

僕はゴム手袋をして持参した袋を取り出した。

そこら辺に落ちていた犬やら猫のフンを入れてある。

ガムテープを剥がし女の口へと詰め込む。

クソ喰らえとはまさしくこのことだ。

女は激しく抵抗する。

すぐ嘔吐しそうになったのでガムテープを貼って口を力ずくで抑えた。

吐かせるもんか。

すべて飲み込んでしまえ。

しばらく吐き気と戦って暴れていた女が急に大人しくなった。

あれ?どうしたのかな。

女の顔を覗き込んでみる。

目を見開いたまま動かない。


もしかして死んだのか?


どうやら女は気管に吐瀉物が詰まったようであっさりと死んでしまった。

もう死んでしまったのか。

でも、まあクソ食らって死ぬなんてお前にふさわしい死に方じゃないか。


僕は女の死体をそのままにして家を後にした。


きっと僕は逮捕されるだろう。

でも、それでいい。

逮捕されたときに正直に全て話そう。

この女だけじゃなく色んなアンチコメントに我慢ができなくなったこと、おのれのまいた種がどんな形で自分に返ってくるのか知らしめたかったこと。

たぶん、この事件は世間にネット社会の闇の部分をさらすことになると思う。

そして、おそらく誰かが模倣犯としてまた似たような事件を起こすだろう。

僕はそれを望んでいた。

顔を知られないことをいいことに人の心をズタズタに傷つける奴にばつを与えてほしい。

顔が見えなくたって 匿名だって簡単に名前も住所も職業も家族構成もその他 諸々もろもろのことが表に出てしまうんだと現実を叩きつけてほしい。

いいかい、必ず必ず自分の身に返ってくるということを覚えておいてほしい。

まあ、僕や誰かがこんなことしなくても

制裁はくだされるんだけどね。

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制裁 梅田 乙矢 @otoya_umeda

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