第7話 恨みを得る者

「じゃあ、行こう」

「おう!よろしく!」


二人で八咫烏本部にいるおじいちゃんの方へと向かっていると、途中にあったソフトクリーム屋から小さい五歳程の少年が出てきた。手にはバニラのソフトクリームを握って嬉しそうに駆け回ってる。だけど運が悪く転んでしまい、近くにいた男性の服にソフトクリームをかけてしまった。ぶつかった少年は泣きながら震えてしまっている。


「あぁ゛?……何してくれてるんだこの餓鬼は」

「ごっ、ごめんなさいッ……!」

「謝って許すとでも?俺を誰だと思ってるんだッ!警部だぞッ!」


あいつは八咫烏の藤枝 税ふじえだ ぜい警部じゃ…おじいちゃんが素行が悪くてコネで入った奴って言ってたけど本当みたい。でもおじいちゃんいわくバックに誰かついてるみたいだから騒ぎを起こすわけには……どうする事が正解かと考えてると藤枝がぶつかった少年に手を出そうとした。このままだと少年がっ…そう思いつつ、僕は目を背けてしまった。


「後悔してももうおグハッ!!」


この声に顔を上げ隣を見ると隣にいたはずの勇矢がいなくなり、藤枝の方を見ると、さっきたっていた場所から数m先で仰向けに倒れた藤枝と、その目の前にたっている勇矢がいた。勇矢の腕には微かに赤色の霊力が残っていた。………なんだ、勇矢もアマネセルだったんだ……そんなことより…今は藤枝だ。まさかそんなことは思ったけど藤枝の腫れた右頬が、勇矢が殴ったといっている。ふと、ぶつかった少年の方を見ると何が起こったか分かっていなそうだった。


「ぼく、早くお母さんとここから逃げて」


気付いたら僕はそんなことを言っていた。ぶつかった少年は涙を我慢しながら近くにいたお母さんらしい人の方へ行き、二人はこの場を去っていった。勇矢の方はどうすれば…すると勇矢は藤枝に向かってこんなことを言っていた。


「子供に暴言を吐くな!後、手も出すなッ!」


そう言ってる彼は、どこかおじいちゃんに似ていた。正義感の強い、おじいちゃんに。だけどこのままだと色々まずい。内心焦り始めていると、近くにいた藤枝の取り巻きの男性二人が突然声をあげた。


「誰か!警部が殴られた!!」

「あいつを捕まえろッ!」

「俺…こんな力出せたんだ……」


藤枝の取り巻きが勇矢を悪者にしようと声をあげているのに、勇矢は自分が相手を数m先まで殴り飛ばせたことに驚いているようだった。僕は思わず腕を掴んで、この場を逃げ出した。後ろから藤枝の取り巻きの声が聞こえたけどとにかく逃げた。


「おっおい!急にどうしたんだよ!」

「それは僕の台詞だよ。…とにかく今は逃げないと」

「あぁ…確かにそうだな。俺もあいつらに捕まるのはごめんだ!」


そう言いながら二人で小路に入ったが…それがいけなかった。運悪く僕達の進んだ小路は行き止まりだったのだ。後ろからは僕達を追いかける声が聞こえてくる。いったいどうすればっ…二人して行き止まりの原因である壁を見ていると後から声がした。


「君達、私が合図するまで目を瞑っていなさい」


その言葉に反射で目を瞑る瞬間微かに黒髪が見えたかと思うと、布のようなものを頭から被せらせた。どうなるか分からない不安と不思議な気持ちで合図があるのを待っていると、また声がした。


「もう目を開けて構わないよ」


目を開けるとさっまでいた小路じゃなく、僕と勇矢が出会った場所と似た住宅地だった。いったいどういう…あ、お礼を言わないと…そう思い後を向くとそこには勇矢以外誰もいなかった。


「どうなってんだ…?」


そうこぼした勇矢の考えに、今は強く共感した。でも何故だろう…僕は初めて会ったように思えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

裏世界に住む何でも屋 霧裂 蒼 @kaki-kama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ