第66話 個室に生じる艶めかしい音

「そろそろ交代だよ仁美ちゃん。次はうち」


 強引に両手で広季の顔を掴み、舞は自身の付近に接近させる。広季と舞の距離が目と鼻の先になる。


「じゃあ。いただきま~す! 」


 高らかに言葉を紡ぐと、舞は広季の唇を奪う。以前、舞の自宅で覚えた、柔らく弾力ある感触が、広季の唇を覆う。カラオケのドリンクバーを飲んでいるためか。舞の唇はメロンソーダの味がした。


「うん。うちゅ。はぁはぁ。…んちゅ…」


 1度唇を合わせた後、舞は広季の口内に唇を入れ込む。舞の柔らかく、メロンソーダの味が染み付いた舌に、広季は反応する。広季も自身の舌をゆっくり動かし、舞の舌と絡める。


 クチャッ。ベチャッ。


 ベロチューによって生じる生々しく、エロく嫌らしい音がカラオケの個室に木霊する。


「っん。うん。激しいの! もっと舌…絡ませるの……あっん♪」


 広季と舞の舌から唾液が垂れ、個室の床に落下する。唾液は1粒では無い。何粒も床に落下する。当然、激しく絡み合う広季と舞の舌にも、多くの唾液が粘りつく。両者の唾液が熱く熱く混じり合う。


 広季は舞の舌の体温と共に、液体の唾液の味も口内で知覚する。唾液も仄かにメロンソーダの味がする。無味ではなく、甘い。その甘さがキスをエスカレートさせる。


 一方、仁美と海は目を丸くしながらも、広季と舞のベロチューを凝視する。2人共目が離せない。少なからず、好奇心が存在するのだろう。


「っん。広季の舌……オレンジジュースの味がして…はぁはぁ…美味しいの。…ずっと舐めてられるの。…あっん。キス…はぁ…最高…なの」


 ベロチューで舌を絡めながらも、舞はキスの感想を口にする。キスの最中などで、言葉は途切れ途切れだ。


 だが、その際の舞の息遣いが艶めかしい。舞の息遣いが広季の鼓膜を刺激する。舌の絡み合う音と舞の息遣いが耳を通過するたびに、気分の高揚が止まない。キスをする度に、触覚と聴覚が刺激され、興奮のレベルが上昇する。キスによる5感の刺激は恐ろしい。


「ぷは~~」


 一息つくためか。ようやく舞は広季の唇を解放する。2人の顔の距離がゼロ距離から数センチほど離れる。その際、ガムのように、2人の唇間でびよ~んと糸状の唾液が伸びる。そして、唾液は切れて、静かに個室の落下に着地する。


「ふ~。やっぱりキスは最高なの。もう1回続きする? 」


 瞳を潤ませ、うっとりした表情で、舞は問う。完全にメスの顔に変貌していた。キスとは女をダメにする薬だ。


「だ、ダメです!! 次は私の番です!! 」


 珍しく、我を通し、海が広季と舞の間に割って入る。海が広季の隣のポジションを入手する。広季と舞の距離は先ほどよりも拡大した。


「む~。でも順番は順番だから。仕方ないの。次は海ちゃんの番だね」


 口周りに付着した広季の唾液を、舞は右手で拭き取る。広季の唾液がこびり付き、舞の口元は白い輝きを放つ。


「…広季さん」


 敢えて上目遣いで、海は広季を見つめる。恥ずかしがって、すぐに目を逸らす。


「…。東雲。俺からいいか? 」


 海に顎クイをする広季。


「ひゃい!? 」


 びくっと肩を震わせる舞。されるがままに、広季にくいっと顎を上げてもらう。


 舞とのキスのおかげで、広季は気持ちが収まらない。普段よりも気も大きくなる。そのため、通常よりも積極的に行動する。


「…東雲…準備はいいか? 」


 僅かに息を荒らしながらも、広季は海の唇に自身の顔を接近させる。広季の吐息が海に吹き掛かる。


「ひ、ひゃい。ど、どうぞ」


 広季とゼロ距離になり、海の顔は真っ赤になる。普段よりも積極的な広季に動揺しているのかもしれない。


「じゃあ。もらうよ。いきなり舌からいいかな? 」


「最初は優しく。ソフトなキスか…。っん。ぅん。う~~ん」


 返事を待たずに、最初だけソフトキスをし、先ほどの舞のように、広季は海の口内に舌を入れる。口内に侵入した舌は、獲物を狙うように、海の舌に接近する。やがて生々しい音を立て、絡み合う。


「ちょ…。ぁん。…待ってください! いきなり……激しすぎます。あ~ん! 」


 言葉や態度は裏腹に、広季の舌攻撃に、海は敏感に感じる。肩や首を震わせる。しっかり感じている証拠だ。


「美味い。美味い。東雲の舌。はぁ。オレンジジュースの味がすぅる」


 海の舌を舐めたり、吸ったりすることで、オレンジジュースの風味を味わえる。先ほど、ドリンクバーでオレンジジュースを口にしていた。そのため、海の舌にオレンジジュースの味が大いに残る。


 クチャ。ペチャ。ジュル。


 よだれと舌が絡み合う。艶めかしくエロい音が室内を盛り上げる。


 舞とのキスによる高まった気分。その気分は歯止めが効かない。


 普段とは打って変わり、積極的に広季は行動する。当然キスにも表れる。


 その証拠に、先ほどから海は受け身だった。積極的な広季のキスに海が合わせる形だった。


 広季の能動的なキスにビクンッビクンッと舞はリアクションを取る。時折、甘く思わず漏れたような吐息も発する。鳴くような感じた声も忘れずに、止まらない。


 海も広季に答えるように、キスを返す。自身から進んで舌を上下左右に動かす。


「キぃス…。はぁはぁ…最高れぇすぅ。もっと。もっと…くらさぃ」

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彼女に振られてひどく落ち込んでたら幼馴染や女友達が慰めたり、身体の温もりを提供してくれた 白金豪 @shirogane4869

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