第65話 終業式の後にて
1学期の最終日。終業式を終え、広季は、仁美、海、舞の3人共にカラオケに来ていた。1学期のお疲れ様会という名目で、4人はカラオケに足を運んでいた。
カラオケの個室において、仁美、海、舞の女性陣は流行りや一昔前の歌など、好きな物をチョイスし、熱唱した。ぱーっと弾けるように、女性陣はテンションが高い。
(やけに3人共テンションが高いな。まあ、楽しんでいるなら、問題ないけど)
広季は自分の番だけお気に入りのアニソンを歌う。それ以外は、薄暗いカラオケの個室の机に頬杖をつき、広季は盛り上がる3人を視野に捉え、微笑ましく頬を緩める。
「ねえねえ、広季君、ちょっと要望があるの。いい? 」
盛り上がりが一息つき、広季の隣に、舞は腰を下ろす。広季と肩が触れ合いそうなほど、舞はゼロ距離に接近する。
「いいです。いや、いいけど。どうしたの? 」
自然と口から発しかけた敬語を飲み込み、カップルらしくタメ口で対応する。
「うん。単刀直入に言うね。キスしたいの」
「は? 」
舞の予期せぬ言葉に、素っ頓狂な声が漏れる。
(キスがしたい? 仁美や東雲がいる前で? しかも、ここはカラオケの個室だよ? )
「ずるいです舞さん! わたくしも広季さんとキスしたいです!! 」
舞に同調し、羨ましそうに、海が割り込む。その証拠に、舞とは反対側の広季の隣に、海は座す。
「東雲まで! 」
「…しょうがないじゃないですか。あの時の。3日前の広季さんの唇の感触が忘れられないんですもん」
恥ずかしそうに、頬を朱色に染め、純白な肌の顔に両手を添え、海は広季から顔を背ける。どうやら羞恥心に駆られているようだ。
「うちもそうなの! あの時の。キスの時間に浸って、広季君の男らしく、うちより弾力ある唇に溺れる感覚。病みつきになって、何回でも味わいたいの。もう我慢できない。ねぇ、……いいよね? 」
瞳を潤ませ、舞は上目遣いで広季を見つめる。完全にキスする気満々の表情だ。準備万端なようで、舞は唇を僅かに前に突き出す。誘惑され、広季もその気になってしまう。キスするムードが徐々に完成に近づく。
「ちょっと待って。…もう私以外の2人は広季とキスを済ませてるの? 」
これでもかと、目を大きく見開き、仁美は動揺を隠せない。珍しく、だらしなく、口が半開きの状態だ。
「そうなの! 」 「そうですよ! 」
特に隠さず、舞と海は歯切れ良い口調で同時に認める。彼女達の口調には迷いが無く、不思議と勢いもあった。声も明るかった。
「…本当だったんだ。何か…私だけ置き去りにされてる感じで、悔しい! 」
ぷくっと頬を膨らませる仁美。表情から嫉妬か怒りか、何かしらの感情を抱いたに違いない。
「2人共! 私は広季と1回もキスした体験がないから。優先でまず私が最初にキスしていいですか? 」
なぜか右手を上げ、立候補するように、仁美は名乗りを挙げる。
「ええ~。最初にうちが手を挙げたのに! 」
「わたくしも納得できないですね」
口々に、舞と海は不満を口にする。どうやら、いち早くキスに浸りたいみたいだ。
「ダメ! 今回は私が優先させてもらう」
仁美も引かず、自身の主張を通す。
「…う~ん。しょうがないの。じゃあ、仁美ちゃんが、1番初めでいいよ。キスもまだみたいだから。海ちゃんも大丈夫? 」
「仕方ないですね。既に欲求の限界突破が目前なので、できるだけ早く終わらせていただければ」
渋々、海は仁美の優先を認めた。
「やった!! これでちょっとは2人に追いつける!! 」
仁美は個室のソファから立ち上がり、広季の所まで歩み寄る。
「ちょっと立ってもらってもいい? 」
目を逸らし、緊張した面持ちで、仁美は希望を伝える。
「わ、わかった」
幼馴染の見たことない、変貌した表情に、調子が狂う広季。そんな仁美がどこか愛おしい。普段とは異なる幼馴染の一面を知った気分だ。
立ち上がり、広季は仁美と視線を合わせる。潤んだ瞳が広季を捕まえて、放さない。
「広季…」
「仁美…」
両隣に舞と海が居るにも関わらず、広季は仁美と見つめ合う。
ゆっくりゆっくり、前に突き出した唇を、両者は距離を狭める。そして、両者の唇はゼロ距離に達し。
チュっ♡
唇が触れ合い、騒がしいカラオケの個室に、静かに心地よい音が生まれた。
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