第6話

 6時34分、シャワーに入り、朝食を食べ終えた私は、いつも通り七三分けにした髪にワックスをかけ、パリッとしたスーツを身につけた。

お気に入りのネクタイを手にし、妻にネクタイを締めるよう頼もうとして、ふと妻はもういないのだ、と気づく。

しかし、社会人たるもの、身嗜みには気を遣わなくては。

覚束ない手つきながらも何とかネクタイを自力で締め、私は妻が一昨年の結婚記念日に贈ってくれた腕時計を身につけた。

冷蔵庫を開けると、そこには妻がいた。

いってきます、と冷蔵庫に声をかける。

声こそ聞こえていないが、何だか彼女もいってらっしゃい、と言ってくれているような気がした。

玄関先でもう一度手を振って、私は家を出発した。

妻とまともに挨拶を交わすのなんて、何年振りだろうか。

やっと私たちの結婚生活が再開したような、そんな気がした。

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私と彼女の結婚生活 @WhatIsSankakukansu

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