第12話-おまけ

 俺はブルっと身震いした。やはり体を冷やしたか。

 見栄張って桜に上着を貸したからだと言われればその通りなのだが。


「さっさと浴びるか」


 浴室に入ってシャワーを出し、曇っている鏡に当てる。


 鏡に映る腹の花模様、それを抑える耳飾り、水色がかった瞳。


「ふう」


 何に対するものでもない溜め息を吐き、俺、千崎春夢は頭を濡らし始めた。


 俺の呪いの進行の抑制役として桜が来て約一ヶ月。

 今日、ようやく俺らは友達となった。


「最初は普通に苦手だったのにな」


 あの日、二十分経っても座り続けている桜を見た俺は、戸惑うと同時に哀れだと思った。


 こいつは俺なんかのために、これから五ヶ月、この家から出られないのか、と。


 普通に気も合いそうにないし、俺が悪役になればあのほわほわ両親と仲良くなってそれなりに楽しく過ごしてくれるかと思い、今考えても酷いあんな言葉を口にし、あの応接間を出ていった。


 それがなぜ、こんなことになっているのか。


『あと四ヶ月、よろしくね!』


「友達……か」


 正直その先も……文通なんかでいいから交流は続けたいと思う。


 文通といえば、最近舜華しゅんかから手紙を貰っていないな。

 まあ用がないということは、特に変わったことはなく平和、ということだろう。あいつはそういう奴だ。


 タオルを濡らし絞る。

 固形石鹸を包みタオルで泡立て、石鹸を定位置に戻す。


 そのタオルで体をゴシゴシと洗う。

 「今 肌を粗末に扱っていると年を取ってから大変な目に遭う」とよく両親や舜華から言われるが、これぐらいでないと洗ってる感じがしないのだから仕方がない。


 胸を洗っていて思い出したのは、昼間 咄嗟に支えた桜の感覚。


 ……柔らかかった、よな。


 俺は自分の頬を殴った。

 違う、違う違う。全体的に薄くて小さくて、強く抱きしめたら壊れてしまうのではと思うくらい儚くて……それこそ、桜の花みたいで。

 近くから見た桜の顔を見て、ああ、こいつも女子なんだなって思って。

 それで……


 俺は反対の頬を殴った。


 あああああ恥ずいっ! 一人で何考えてんだ! ああ、顔熱くなってきた。そうだ水、水シャワーだ!


 シャアアアアアア


「ぎゃああああああ!」


 冷たっ! 予想以上に冷たかった! と、止め……


 ツルッ ゴン


「ああああああ!」


 床の泡で滑り 転んだ俺は悶絶した。


「春夢さん! うるさいですよ!」


 リビングからお袋の声。


「……はああ」


 色んなところが痛い。






 「間違えてシャワーから水を出して止めようとして転んだ」、とかちょっとよく分からないことを言って春夢がお風呂から上がってきた。


「何してんのよ。大丈夫?」


「……誰のせいだと……」


「ん? なんて?」


「いや……俺の単純な不注意だから……色々」


「いろいろ」


 そういうアホをやりそうなのは、どちらかというと私な気がするのだけれど。


 これが、一緒にいると似てくるってやつなのかしら。


「つまり類は友を呼ぶってことね」

「馬鹿が近くにいると馬鹿が伝染るってことだな」


 ……。


「「……は?」」


 また口ゲンカをしているとお義父さんに「喧嘩するほど仲が良いってことだね」と言われたが、多分ケンカするってことは相性がよくないということだろう。


 そして、ケンカじゃないと遊べない、話せないのが私たちであるだけなんだろう。











 読んでくださりありがとうございました。「桜は夢に舞う第1章 茜さす」はここまでです。

 作者の感想は「天羽天のひとり言」という枠(別作品になってます)に収めましたので興味のある方はご覧ください。


 本当にありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜は夢に舞う 天羽天 @amou_sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ